レッド・ヴェルヴェット・ケーキ
レッド・ヴェルヴェット・ケーキ | |
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高級ホテルウォルドルフ=アストリアで出されている、4層になったレッド・ヴェルヴェット・ケーキ | |
種類 | レイヤー・ケーキ |
フルコース | デザート |
発祥地 | アメリカ |
地域 | アメリカ |
主な材料 | バターミルク、バター、砂糖、ココアパウダー、穀粉、クリームチーズクリーム(例)、ビートルート(例)、食紅 |
レッド・ヴェルヴェット・ケーキ(red velvet cake)は、伝統的にレッド(赤)、レッドブラウン(赤茶)、クリムゾン(緋色)、マホガニー(赤褐色)、マルーン(栗色)などの色合いのレイヤー・ケーキである[1]。レイヤー(層)として、白いクリームチーズかアーミン・アイシングと呼ばれるバタークリームが挟まれる[2]。現代のレッド・ヴェルヴェット・ケーキはふつう赤い人工着色料が使われている[3][4]。もともとは、ダッチプロセス(アルカリの添加)前のココア豆に含まれる豊富なアントシアニンの発色によって色をつけていた[1]。
バターミルク、バター、ココア、ビネガー、フラワーが材料としてよく使われる。また、着色料の代わりにビートルートのような赤い食材で色をつける場合もある。
歴史
[編集]ヴェルヴェット・ケーキの発祥はヴィクトリア朝時代に遡ると考えられている。この時代にこのケーキはちょっと変わったデザートとしてふるまわれていた。客は「ヴェルヴェット」という言葉を聞いて、それがクラムケーキをもっと柔らかで、なめらかな口当たりにした菓子だと考えたことだろう。同じ時代には、いわゆるデビルズフードケーキも考案されており、これがヴェルヴェット・ケーキの原型だと考える人もいる。この二つの違いは、前者がチョコレートを使うのに対し、後者はココアを使うという点である[5]。
第二次世界大戦中に食料が配給制になった時期には、職人たちはビートを絞った汁を煮詰めて、ケーキの色を鮮やかにしようとすることもあった。レッド・ヴェルヴェット・ケーキのレシピとしても、材料としてこのビートを含んでいるものは見つかる。ケーキ生地のつなぎや水分を保つために使われていたし、現代でも使われることはある[6]。テキサス州のアダムス・エクストラクト社は、大恐慌時代のアメリカの各家庭にレッド・ヴェルヴェット・ケーキを紹介したと言われている。この会社は、スーパーの店頭にポスターを貼ったり、1枚ずつ切り取って持ち帰れるレシピカードを導入したりして、食紅や各種のフレイバーをいち早く販売したのである[7][8]。このケーキとそのオリジナル・レシピは、ニューヨーク市の高級ホテル、ウォルドルフ=アストリアのものが非常に有名であり、このホテルではウォルドルフ=アストリア・ケーキという名称で提供している。しかし一般にこのケーキは、アメリカ南部の一部であると考えられている[9]。昔からレッド・ヴェルヴェット・ケーキはフランス式に小麦粉とバターを炒めたルー(これをアーミン・アイシングともいう)が使われており、ふわりとしたとても軽い食感のケーキなのだが、つくるのにはだいぶ時間がかかる。そのためクリームチーズとバタークリームを使ったバージョンが人気となっている[10][11]。
カナダでもこのケーキはデザートとして有名であり、1940年代から1950年代にには百貨店のイートンズに入っている店やレストランのメニューに並んでいて、よく知られていた。イートンズだけのレシピだという触れ込みで、作り方を知る従業員はその口外を禁止されていたため、このケーキを発明したのはイートンズのオーナーであるフローラ・イートンだと間違える人がたくさんいた[12]。
近年では、レッド・ヴェルヴェット・ケーキやカップケーキは、アメリカやヨーロッパ各国でたいへんな人気となっている。人気のきっかけは映画『マグノリアの花たち』において、アルマジロをかたどった花婿ケーキとしてレッド・ヴェルヴェット・ケーキが登場したことである[9]。マンハッタンの「マグノリア・ベーカリー」は、1996年以来このケーキを販売している。この店は、1998年にオープンしたハーレムの「エイミー・ルース」のように南部の食文化をソウルフードとして提供する店として知られている[9][13]。2000年には「ケーキ・マン・レイヴン」がこのケーキを専門的に手がける初めての店としてブルックリンにオープンしている[14][15]。
材料
[編集]ケーキに使われる材料は、時代や地域によって異なる。ジェームズ・バードの『アメリカの料理』(1972年)は、ショートニング、バター、植物油の量が異なる3つのレッド・ヴェルヴェット・ケーキを紹介している。いずれにせよ、赤い食材が着色のために使われることに変わりはない。酸性のビネガーとバターミルクを混ぜることで、ココア豆のアントシアニンが赤く発色するとともに、ケーキがしっとりとして、ふわりと軽い食感になる。この自然な色合いが、「レッド・ヴェルヴェット」や「デビルズ・フード」などのチョコレート・ケーキなどの名前の由来になったのだろう。現代ではチョコレートもダッチプロセスを経ることが多く、アントシアニンの発色は起こりにくい。レッド・ヴェルヴェット・ケーキ本来の風味や見た目を再現するには、ビネガーと着色料を減らすかまったく入れず、ダッチプロセスを経ていないココア豆を使えば、希望通りの酸味や色合いをつくりだすことができる。
バリエーション
[編集]レッド・ヴェルヴェット・ケーキそのもののバリエーションも多いが、レッド・ヴェルヴェットと冠した食べ物は無数にある。プロテイン、紅茶、ラテ、ポップ・タルト、ワッフル、アルコール飲料などであるし、味ではなく香りだけであれば、ろうそくや芳香剤にも使われている[16]。
脚注
[編集]- ^ a b Ben Starr (2015年2月7日). “Real Red Velvet Cake”. 2019年1月4日閲覧。
- ^ Shane Wingerd (2009年1月12日). “Ermine Wrapped Velvet”. 2019年1月4日閲覧。
- ^ “Red Velvet Cake”. bettycrocker.com. General Mills. 21 February 2017閲覧。
- ^ “The rediscovery of red velvet has gone way too far”. Quartz (2015年). December 4, 2016閲覧。
- ^ Lam, Francis (2017年10月6日). “The evolution of red velvet cake, an iconic American dessert”. The Splendid Table 2018年8月3日閲覧。
- ^ Watson, Gwen (2015年2月6日). “History of Red Velvet Cake” (英語). The Daily Slice 2018年8月5日閲覧。
- ^ Parks, Stella (2011年10月2日). “The Original Red (Wine) Velvet Cake Recipe”. Gilt Groupe. 2012年6月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年11月8日閲覧。
- ^ “Red Velvet, the 'Lady Gaga' of cakes, wears well during the holidays”. Post-gazette.com (2011年12月15日). 2012年11月8日閲覧。
- ^ a b c Fabricant, Florence (14 February 2007). “So Naughty, So Nice”. The New York Times 22 August 2012閲覧。
- ^ Martha Stewart. “Cream Cheese Frosting for Red Velvet Cake”. 7 July 2016閲覧。
- ^ Kim Severson. “Red Velvet Cake: A Classic, Not a Gimmick”. 7 July 2016閲覧。
- ^ Anderson, Carol; Katharine Mallinson (2004). Lunch with Lady Eaton: Inside the Dining Rooms of a Nation. Toronto: ECW Press. ISBN 1-55022-650-9
- ^ “Amy Ruth's Home-Style Southern Cuisine”. New York magazine March 27, 2014閲覧。
- ^ “Cake Man Raven has flown the coop — no more red velvet cake in Fort Greene”. NY Daily News. (November 28, 2012)
- ^ Harris, Wendy (2006年1月7日). “Cake Man”. Black Enterprise. 2018年8月5日閲覧。
- ^ Severson, Kim (2014年12月5日). “Red Velvet Cake: A Classic, Not a Gimmick” (英語). The New York Times 2018年8月5日閲覧。
外部リンク
[編集]ウィキメディア・コモンズには、レッド・ヴェルヴェット・ケーキに関するカテゴリがあります。