小葉植物

小葉植物
小葉植物
左上:ヒカゲノカズラ4倍体 Lycopodium clavatum(ヒカゲノカズラ科)
左下:トウゲシバ Huperzia serrata(ヒカゲノカズラ科)
右上:ミズニラ Isoëtes japonica(ミズニラ科)
右中:イワヒバ Selaginella tamariscina(イワヒバ科)
右下:クラマゴケ Selaginella remotifolia(イワヒバ科)
ゾステロフィルム
ゾステロフィルム Zosterophyllum sp. の復元モデル。
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 陸上植物(有胚植物) Embryophyta
: 維管束植物 Tracheophyta
亜門 : 小葉植物 Lycophytina
学名
Lycophytina Kenrick & Crane
シノニム
[3]

小葉植物[4](しょうようしょくぶつ、subdivision Lycophytina[3][1]: lycophytes[5])は、小葉を持ち、胞子による生殖を行う維管束植物の一群である[6]。分類階級は亜門に置かれ、ヒカゲノカズラ亜門[3]小葉植物亜門[3][1]Lycopodiophytina, Microphyllophytina[3][1])などとも呼ばれる。現生の小葉植物はヒカゲノカズラ目ミズニラ目イワヒバ目の大きく3群に分かれ、その全てがヒカゲノカズラ綱に含まれる小型から中程度の大きさの草本性植物である[7][4]。しかし、ミズニラ類に近縁な絶滅したリンボクなどの化石小葉植物は、二次組織を形成し木本になっており、石炭はこれらの植物の化石が大半を占めている[7][4]

小葉類[5][8][9](しょうようるい、Microphyllinae)やヒカゲノカズラ植物[10] Lycopodiophytaヒカゲノカズラ類[1] (: lycopods)、鱗葉植物[1](りんようしょくぶつ、Lepidophytina[1])と呼ばれることもある。但しヒカゲノカズラ類という用語はヒカゲノカズラ目を指す[10]ことも多い。かつてはヒカゲノカズラ門[11][7] Lycophyta[10][12]ヒカゲノカズラ植物門[10]と、門の階級に置かれることもあった。

古生代までには他の植物と分岐していたため(#分子系統解析による系統関係参照)独自の形質を持つが、種子を持たず胞子で増え、単相の配偶体と複相の胞子体で世代交代する生活環を持つため(#特徴参照)、大葉シダ植物と共にシダ植物(広義、側系統群)に含められていた[5]

本項では小葉植物 Lycophytina (lycophytes)をKenrick & Crane (1997)に基づき、現生小葉類すべてを含むヒカゲノカズラ綱 Lycopsida (lycopsids)だけでなくゾステロフィルム綱 Zosterophyllopsida (zosterophylls)も含む分類群として扱う。

分子系統解析による系統関係

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Wikström & Kenrick (2001)Wickett et al. (2014)Puttick et al. (2018)による分子系統解析から、次のような系統樹が得られている[13][14][15][16]。現生の陸上植物は大きく分けてコケ植物・小葉植物・大葉シダ植物種子植物の4つのクレード(単系統群)からなる[8]。このうちコケ植物以外は維管束を持ち、維管束植物と呼ばれる[8]。小葉植物はかつてはマツバラン類(裸茎植物)、トクサ類(有節植物)、シダ類(大葉類)とともにシダ植物に含められていたが[5][10][17]、分子系統解析により残りの3群が大葉シダ植物 Polypodiopsida (≈Monilophyta)を形成して種子植物とクレード(大葉植物)をなし、シダ植物は明らかに側系統であることが明らかになった[8]。また、大葉植物と小葉植物は3億9280万年前-4億3760万年前(シルル紀前期~デボン紀前期)と分岐年代も古く[18]、維管束植物の基本器官である根、茎、葉の性質がそれぞれの群で大きく異なるため、根や葉はそれぞれ独立に獲得されたもので、平行進化の結果と考えられている[4]。更に、現生小葉植物の各群でも、デボン紀に分岐しただろうと考えられている[15]

隔膜形成体植物

隔膜形成体緑藻類車軸藻類+コレオケーテ類+接合藻類

陸上植物
コケ植物

ツノゴケ植物門

苔植物門

蘚植物門

維管束植物
小葉植物

ヒカゲノカズラ目 Lycopodiales

イワヒバ目 Selaginellales

ミズニラ目 Isoetales

シダ植物
"Pteridophyta"
Lycophyta
大葉植物
大葉シダ植物

トクサ目 Equisetales

マツバラン目 Psilotales

ハナヤスリ目 Ophioglossales

リュウビンタイ目 Marattiales

薄嚢シダ類 Polypodiidae

Polypodiopsida
種子植物

裸子植物 Gymnospermae

被子植物 Angiospermae

Spermatophyta
Euphyllophyta

特徴

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現生の小葉植物は全て他の維管束植物と同様にという基本器官をもつ。しかし、葉は小葉で、他の植物とは構造が大きく異なり、根でも化石小葉植物では根を持たなかったうえ、内生発生する側根ではなく二又分枝による外生的な分枝を行い、根端分裂組織の維持機構も異なることから葉と根は他の維管束植物と独立に獲得したと考えられている[4][19]。また、茎頂はイワヒバ目では大葉シダ植物と同様に頂端細胞による分裂が行われるが、ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum では被子植物の organising centre (OC) に似たOC様領域 (organising centre-like tissue) を持つ[20]

小葉

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突起仮説による小葉の進化
1: マツバラン類が持つ葉状突起。
2: アステロキシロン Asteroxylon のもつ葉脈のない突起の基部まで葉跡が伸びる小葉。
3: 現生小葉植物の持つ、葉跡が内部まで伸びる小葉。
ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatumヒカゲノカズラ科)の背腹性の見られるシュート。小葉が密生する。
イヌカタヒバ Selaginella moellendorffiiイワヒバ科)は不等葉性を持ち、背葉(青色)と腹葉(赤色)の形が異なる。スケールバーは1 mm。

小葉植物は、これはほかの維管束植物が持つ大葉とは異なり、維管束(原生中心柱もしくはその派生の中心柱)から葉隙を形成せずにでき、1本だけ葉脈を持つ小葉(しょうよう、: microphyll)と呼ばれる葉を作る[4][10][21][22]。ただし、メキシコのイワヒバ属には葉脈が基部から最大21回二又分枝して扇状に広がり、一部では網目を形成するような葉を持つ種も存在する[22]。逆に大葉植物でも針葉樹や高山性のガンコウランのように小葉様の葉を二次的に獲得したものも存在する[22]

小葉を大葉と初めて区別したのはエドワード・ジェフレー (1903)の "シダと裸子植物の茎の構造と発生"であるとされる[22]。ジェフレーは維管束植物を葉隙のない小葉的な (mirophyllous) 葉をつける小葉類 Lycopsidaと、葉隙を作る大葉的な (megaphyllous) 葉を作る大葉類 Pteropsidaに分けた[22]。この小葉類には現在の解釈とは違いトクサ類も含まれ、葉隙の有無がその判断基準とされた[22]

この小葉の形成は進化的に、突起仮説により説明されることがある[4]。突起仮説は Bower (1935)によるもので、ゾステロフィルム類に見られる茎の表面の突起が進化の過程でだんだん大きくなり、それにつれて葉脈が突起に入り込むようになって小葉となったと考えた[4]。実際、小葉の形成は茎から葉原基に求頂的に維管束が形成されるため、この説と矛盾しない[4]。小葉原基が茎頂分裂組織から形成される分子メカニズムは明らかになっていない[4]。イワヒバ目では葉原基頂端に頂端幹細胞があるが、ヒカゲノカズラ目及びミズニラ目では葉原基頂端に葉頂端幹細胞は認められないことや、ヒカゲノカズラ目とイワヒバ目では小葉は数 mm程度なのに対しミズニラ目では約30 cmとなるものもあるといった違いがある[4]

シュート系

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単軸分枝様の成長を行うミズスギ Palhinhaea cernua
ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum の二又分枝。
左:ほぼ均等な二又分枝、右:単軸状の不等二又分枝。

シュート系は基本的に二又分枝を行う[10][21]

ヒカゲノカズラ目では、Lycopodium lucidulum のように二又分枝した枝は同等であるものもあるのに対し、不等になることもあり、ヤチスギラン亜科ヒカゲノカズラ亜科ではシュートが主軸と側軸に分かれ、単軸分枝様の成長(不等分枝)を行う[4][7]。つまり同一個体内で伸長の早い強勢な茎(主軸)は単軸状に、弱小な茎(側軸)は二又状の分枝を行う[23]。不等分枝は主軸が根茎上に匍匐する種でよく発達する[7]。なお、茎頂分裂組織の分裂(不等二又分枝)により分枝を行うため[20]、真の単軸分枝ではない。

イワヒバ目では、直立性もしくは茂みとなって、同形等大の葉をつける等葉性をもつもの、平らとなり匍匐性で背腹性を持ち不等葉性のもの、根茎上の茎が丈夫に発達して葉状の側枝が直立し不等葉性のものの3つがみられる[7]。分枝はやはり茎頂が2つに分かれる二又分枝であるが、結果的に不等分枝となる[7]

ミズニラ目は軸が短く直立し、球茎(塊茎)となる[7]。若い植物の基部は溝で2つに分かれ、種によっては成長するとさらに溝ができて3もしくは4のふくらみを持つようになるものもある[7]

中心柱

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初期のゾステロフィルム類の維管束はリニア類と同様の原生木部が茎の中心にあり、そこから放射状に外方に後生木部が形成される一次木部をもつ心原型原生中心柱であった[4]。ゾステロフィルム類の一部で後生木部が原生木部の内側方向に形成される外原型原生中心柱をもつものが生じ、そこからヒカゲノカズラ綱が持つような中心柱に進化したと考えられている[4]。アステロキシロンでは原生木部がより皮層側へ張り出した外原型原生中心柱を持ち、現生小葉植物のヒカゲノカズラ目やイワヒバ目では篩部が後生木部の中に入り込んだ板状中心柱(ばんじょうちゅうしんちゅう、plectostele)をもつ[4]。リンボク目およびミズニラ目では、維管束形成層を獲得した[4]。維管束形成層はこの仲間のほかに、ハナヤスリ目および木質植物(種子植物を含む単系統群)が持ち、一次木部と一次篩部の間に形成される幹細胞群で、分裂して茎の外側に二次篩部細胞、内側に二次木部細胞を形成する[4]。リンボク目では二次木部をもつ外原型環状中心柱となった[4]。ミズニラ目の球茎では、複数の幹細胞をもつ茎頂分裂組織から葉を形成する点はヒカゲノカズラ目と同様であるが、茎が伸長しないためか周りの組織が成長中も成長後も隙間の広い環紋または螺旋紋の仮導管細胞を形成し、原生木部と後生木部の二次肥厚の形態が区別できない[4]。ミズニラの球茎側面の篩部の外側にできる側部維管束形成層(側部分裂組織[7])からは二次篩部柔細胞が数細胞ずつ交互に形成され、柔細胞が古くなると二次木部細胞である仮導管へと分化するため、成長した二次組織は二次篩部細胞、二次木部細胞、柔細胞が入り混じった構造になり、プリズム層と呼ばれる[4]

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ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatumヒカゲノカズラ科)の根。
a: 最初の根が均等な二又分枝を始めたころの根の先端;b: 最初の根の二又分枝により均等な2番目の根が2本できる;c: 二又分枝した2番目の根が二回連続した不等二又分枝を行い、それぞれ1対の3番目の根ができている様子;d: cで見られる3番目の根が更に不等二又分枝し、その先端が均等な二又分枝を行って細かい根が作られる。
コンテリクラマゴケ Selaginella uncinataイワヒバ科)の担根体とその先から分枝する根。根は二又分枝を行う。

ドレパノフィクス科アステロキシロン Asteroxylon mackiei根冠のある根を持たないが、現生のトウゲシバの根端に類似した頂端を持つ rooting axis という軸(茎)を持つ[4][24]。また、小葉植物のうちヒカゲノカズラ科のヒカゲノカズラ属 Lycopodiumアスヒカズラ属 Diphasiastrum では静止中心様領域 (Quesient Centre-like area)を持つ根端分裂組織 (Type I)を、コスギラン属 Huperziaヤチスギラン属 Lycopodiellaでは静止中心様領域を持たず前表皮 (protoderm) と基本分裂組織 (ground meristem) が別々の層からなる根端分裂組織 (Type II)を、ミズニラ科ではそれらが根冠と独立した層にならない根端分裂組織 (Type III)、イワヒバ科では大葉シダ植物に似た頂端細胞を持ち、それぞれ大きく異なった根端の形質を持つ[19]。これらのことから、根は小葉類の各群で独立に獲得された(多数回起源である)と考えられている[19][24]

ヒカゲノカズラ類の根は、茎の内鞘から内生的に発生し、二又分枝による外生的な分枝を行う[4]。この二又分枝は根端分裂組織が2つの根端分裂組織に割れて起こる[20]。ただし、ヒカゲノカズラ Lycopodium clavatum では、初めの分枝(最初の根から2番目の根を形成する分枝)は均等な二又分枝を行うが、次の分枝(2番目の根から3番目の根を形成する分枝)では普通、連続した不等二又分枝を行い対になった3番目の根をほぼ同時に2本生じる分枝を行う[20]

胞子嚢

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ヒカゲノカズラの胞子嚢穂

他の二又分枝を行うデボン紀テローム植物では、胞子嚢紡錘形放射相称であり、茎に頂生していたが、ゾステロフィルム類では胞子嚢は腎臓形で背腹性があり、横裂開をして茎に側生していた[4]。現生のヒカゲノカズラ目およびミズニラ目では葉の向軸側に、現生イワヒバ目では葉腋の茎よりの部分から胞子嚢形成が起こる[4]

ヒカゲノカズラ目では、表皮細胞が胞子嚢始原細胞となり、並層分裂して初発壁細胞初発胞子形成細胞となる。初発壁細胞は並層分裂し、最内層がタペート細胞、外側は胞子嚢壁となる[4]。初発胞子形成細胞は並層分裂して胞子母細胞となり、減数分裂して胞子となる[4]。イワヒバ目では初発胞子形成細胞の最外層の細胞がタペート細胞となる[4]

配偶体

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前維管束植物アグラオフィトンなどでは二又分枝し仮導管を形成する配偶体を持ち、胞子体と同程度の大きさであったが、現生小葉類の配偶体は仮導管を形成せず、根棒状であったり雌性胞子中に形成されるなど総じて小さい[4]。ヒカゲノカズラ目では内生菌と共生葉緑体を持たない従属栄養の地中性配偶体を持つ[4]。ただし、ミズスギの仲間では内生菌共生は行うが、地上生となり光合成を行う[4]。イワヒバ目では小胞子が小胞子嚢内にあるうちに小配偶体の初期発生がはじまり、大胞子でも大胞子嚢内にあるうちに大配偶体の初期発生が開始する[21]。大胞子が大配偶体を包んだ状態で地面に落ち、大配偶体の最終発達と受精が起こる[21]。大配偶体は表面から出るとマット状の仮根を発達させる[21]。ミズニラ目でもイワヒバ目と同様に胞子内性配偶体を持つ[21]

小舌

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小舌

Leclercqia

異形胞子性
担根体

イワヒバ属 Selaginella

rhizophore
担根体

ミズニラ目 Isoëtaceae

Nathorstiania

Paurodendron

リンボク目

Diaphorodendron

Lepidodendron

Lepidodendrales
rhizomorph
有舌類の系統関係[25]

イワヒバ目、リンボク目、ミズニラ目では、葉の向軸側に小舌(しょうぜつ、ligule)という器官を形成する[4]。ヒカゲノカズラ目およびアステロキシロンなどにはなく、新奇器官である[4]。イワヒバ属では胞子用と胞子嚢の間の1細胞が小舌始原細胞となり、胞子嚢の発生開始後に分裂を開始する。小舌の基部の葉に接する細胞にはカスパリー腺 (casparian strips)がある[4]

異形胞子性

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レピドストローブス Lepidostrobus の横断面。

現生小葉植物のうち、ヒカゲノカズラ目は単一の形態を持つ胞子をつくる同形胞子性、ミズニラ目およびイワヒバ目は大胞子(雌性胞子)と小胞子(雄性胞子)をつくる異形胞子性である[4][10]

異形胞子性は化石小葉植物のリンボク目およびゾステロフィルム植物のバリノフィトン Barinophyton でも見られる[4]。リンボク目では同形胞子性のものと異形胞子性のものがあるため、最節約的には異形胞子性のものから同形胞子性のものが生じたと考えられる[4]。化石植物であるリンボクの胞子嚢穂は普通レピドストローブス Lepidostrobus と呼ばれ形態属として扱われるが、異形胞子性のものはフレミンギテス Fremingites として区別されることもある[26]レピドフロイオス Lepidophloios では異形胞子性が極めて発達して大胞子嚢穂が種子のようになりレピドカルポン Lepidocarpon と呼ばれる[26]

大葉植物の大葉シダ植物サンショウモ目薄嚢シダ亜綱)とロボク科トクサ亜綱)、種子植物でも別々に見られ、異形胞子性は少なくとも5回独立に同形胞子性から進化した[4]

担根体

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コンテリクラマゴケ Selaginella uncinata の匍匐シュートと下方に伸びる担根体。

イワヒバ目は二又分枝する茎の中間の表皮細胞が担根体頂端幹細胞となり、担根体 rhizophore(リゾフォア、根持体)という特有の軸的器官を形成する[4][27]。担根体はシュートと違って葉を形成せず、オーキシン輸送求頂的であるという根の特徴と、茎から外生発生し、根冠を持たず根を内生発生させるという茎の特徴とを併せ持つ[27][28]。その根とは違う形質を持つことに着目し、NägeliとLeitgeb (1868) らにより担根体と呼ばれたが、その後真の根でも根冠を持たないものがあるなどの理由から単なる地上根の変形であると考えられた[27]。しかし、コンテリクラマゴケの切片の観察により、根冠ができる前に根を内生発生させるという特徴からやはり根ではないと解釈され、現在では根、茎、葉のいずれの基本器官とも異なる第4の器官であると支持されている[27]

リンボク目(またはミズニラ目)のパウロデンドロン Paurodendron などの化石小葉類は茎の基部にリゾモルフ rhizomorph と呼ばれる、根を形成して二次成長を行う部位を持っていた[7]。リンボク目のリゾモルフは器官属形態属)としてスティグマリア Stigmaria と呼ばれ、若い部分には根毛や根冠はないが、母体から内生発生する長さ10 cm程度の細い紐状の細根 rootletと呼ばれる付属物が螺旋配列する[27][28]。古い部分では基部から脱離し、痕が浅いくぼみとして残る[28]。スティグマリアも地上茎や葉を出していた形跡はない[28]。Stubblefield と Rothwell (1981)はリンボク目のレピドフロイオス Lepidophloios は胚の時期に二又分枝し一方が地上茎に、もう一方がリゾモルフになると考えた[27]。現生のミズニラ目は根を生じる器官で、内原型の原生木部をもつ球茎[4][7]塊茎[29][27]corm)をもち、West と Takeda (1915)により特有の器官 organ sui generis である担根体 rhizophoreとして報告された[28]。Rothwell と Erwin (1985)は二又分枝するスティグマリア様のリゾモルフからプレウロメイア Pleuromeiaパウロデンドロン Paulodendron の塊状のリゾモルフが進化したと考え[27]Template:Harxtxtはプレウロメイア目のナトルスティアナ Nathorstiana の根の発生がミズニラ目に似ていることを示唆した[7]。そして、これらのいずれも根を形成する分裂組織を持つリンボク類のスティグマリア、パウロデンドロンやナトルスティアナのリゾモルフ、ミズニラ属の塊茎の下半分は相同かもしれないと考えられている[27][7][28][4]。そのため、ミズニラ類の球茎の下半分に対してもリゾモルフという語が用いられる[27]

系統と分類

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化石植物も含む系統関係

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Crane ら (2004)およびKenrick & Crane (1997)Gensel & Berry (2001)に基づく維管束植物の系統[30][31][32]。但し、二重線は多分岐を、†は化石植物を示す。デボン紀の化石陸上植物は二又分枝を行う植物(テローム植物と呼ばれる)が多数現れたが、それらは前維管束植物リニア類ゾステロフィルム類トリメロフィトン類と呼ばれる4つの側系統群に大別される[13]。そのうち、現生大葉植物はトリメロフィトン類から分岐したのに対し、現生小葉植物はゾステロフィルム類の群から分岐したと考えられている[13]

アグラオフィトン Aglaophyton

維管束植物
リニア綱

Huvenia

Stockmansella

リニア Rhynia

Rhyniopsida

Cooksonia caledonica

クックソニアCooksonia pertonii

大葉植物

Eophyllophyton

プシロフィトン(側系統群) †Psilophyron crenulatum, †Psilophyton dawsonii

Pertica

Tetraxylopteris

種子植物 Spermatophyta

大葉シダ植物 Moniliformopses (≈Polypodiopsida)

Sartilmania, †Yunia, †Uskiella, †Renalia, †Cooksonia cambrensis

小葉植物

Hicklingia

Huia, †Gumuia, †Zosterophyllum myretonianum, †Adoketophyton, †Discalis, †Rebuchia, †Zosterophyllum llanoveranum, †Zosterophyllum fertile

ゾステロフィルム綱

Zosterophyllum divaricatum

サウドニア目

Tarella, †Oricilla, †Gosslingia, †Hsua, †Thrinkophyton

Protovarinophyton

Barinophyton obscurum

Barinophyton citrulliforme

Sawdonia, †Deheubarthia

Konioria

Anisophyton

Serrulacaulis

Crenaticaulis

Sawdoniales
Zosterophyllopsida

Nothia

Zosterophyllum deciduum

ヒカゲノカズラ綱
ドレパノフィクス目

Asteroxylon

Baragwanathia

Drepanophycus

Drepanophycales
ヒカゲノカズラ目

コスギラン属 Huperzia

ミズスギ属 Lycopodiella

ヒカゲノカズラ属 Lycopodium

Lycopodiales
有舌類
古生リンボク目

Leclercqia

Minarodendron

Protolepidodendrales
ミズニラ目

ミズニラ属 Isoëtes

Paralycopoditesリンボク目とすることもある)

Isoëtales
イワヒバ目

イワヒバ属 Selaginella

Selaginellales
Lycopsida
Lycophytina

また、Hao & Xue (2013)では、複数の解析方法により様々な分岐図が描かれているが、その中では何れもゾステロフィルム綱ヒカゲノカズラ綱は側系統となっている[33]。以下に、維管束植物のPAUPを用いた発見的アルゴリズムによる最節約法の分岐図を示す[33]

Horneophyton

Cooksonia pertonii

Cooksonia paranensis

Aglaophyton

Rhynia

Catenalis

Aberlemnia

Hsua

Renalia

Adoketophyton

ゾステロフィルム綱

Gosslingia

Sawdonia

Zosterophyllum llanoveranum

Discalis

Zosterophyllum ramosum

Huia gracilis

Ramoferis

Zosterophyllum myretonianum

Zosterophyllopsida
ヒカゲノカズラ綱

Asteroxylon

Drepanophycus

Halleophyton

Minarodendron

Zhenglia

Stachophyton

Lycopsida

Yunia

Dibracophyton

大葉植物

上位分類

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上位分類の歴史については、シダ植物#分類の歴史を参照。

下位分類

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現生小葉植物については、ヒカゲノカズラ綱#下位分類も参照。
ゾステロフィルム Zosterophyllum(ゾステロフィルム綱)の化石
サウドニア Sawdonia ornata(ゾステロフィルム綱)の化石
アステロキシロン Asteroxylon(ドレパノフィクス科)の化石
アスヒカズラ Diphasiastrum complanatum(ヒカゲノカズラ科)の胞子嚢穂
フウインボク Sigillaria sp. (リンボク目)の幹化石 Stigmaria
ミズニラ Isoëtes japonica(ミズニラ科)

現生属は旧来ヒカゲノカズラ属 Lycopodiumフィログロッスム属 Phylloglossumイワヒバ属 Selaginellaミズニラ属 Isoëtesスティリテス属 Stylitesの5属に分けられていたが[7]、のちにスティリテス属がミズニラ属に内包され[34]、また分子系統解析の結果からヒカゲノカズラ属 Lycopodium s.l.はヒカゲノカズラ属 Lycopodiumヤチスギラン属 Lycopodiellaコスギラン属 Huperziaに分けられた[35]。この分類では特異な形質を持つフィログロッスム属がコスギラン属に内包されてしまうため、フィログロッスム属を維持するためにより細分化された[35][36][37]

大分類は主に『岩波生物学辞典 第5版』に基づく[3]。化石植物の分類は諸説あり、分類体系によってその分類は大きく異なる。以下は大きくはKenrick & Crane (1997)Gensel & Berry (2001)に基づき、ミズニラ目の分類はDiMichele & Bateman (1996) により追記した。現生属はPPG I (2016)分類体系に基づく[37]

ヒカゲノカズラ亜門 Lycophytina

なお、Hao & Xue (2013)によるゾステロフィルム綱の分類は以下の通りである。

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d e f g 岩槻 1975, pp. 157–193.
  2. ^ Zimmermann 1959, pp. 167.
  3. ^ a b c d e f 巌佐ほか 2013, p. 1642.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an 長谷部 2020, pp. 124–142.
  5. ^ a b c d 海老原 2016, pp. 16–17.
  6. ^ 長谷部 2020, pp. 143–150.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u ギフォード & フォスター 2002, pp. 113–181.
  8. ^ a b c d 長谷部 2020, pp. 1–7.
  9. ^ 邑田・米倉 2010, p. 29.
  10. ^ a b c d e f g h 伊藤 2012, pp. 116–129.
  11. ^ 田川 1959, pp. 1–5.
  12. ^ Gifford & Foster 1988, p. 107.
  13. ^ a b c 長谷部 2020, pp. 1–4, 66–76.
  14. ^ Wickett et al. 2014, pp. E4859–E4868.
  15. ^ a b Wikström & Kenrick 2001, pp. 177–186.
  16. ^ Puttick et al. 2018, pp. 733–745.
  17. ^ 海老原 2012, pp. 309–310.
  18. ^ Morris et al. 2018, pp. E2274–E2283.
  19. ^ a b c Fujinami et al. 2017, pp. 1210–1220.
  20. ^ a b c d Fujinami et al. 2021, pp. 460–468.
  21. ^ a b c d e f ギフォード & フォスター 2002, pp. 32–56.
  22. ^ a b c d e f 西田 2017, pp. 91–92.
  23. ^ 熊沢 1979, p. 121.
  24. ^ a b Fujinami et al. 2020, pp. 291–296.
  25. ^ Kenrick & Crane 1997, p. 184.
  26. ^ a b c d 西田 2017, pp. 144–145.
  27. ^ a b c d e f g h i j k l m n 加藤 1999, pp. 60–82.
  28. ^ a b c d e f 熊沢 1979, p. 166-169.
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参考文献

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関連項目

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