秩父弁

秩父弁(ちちぶべん)とは日本語の方言の一つで、西関東方言の内、埼玉県西部に位置する秩父地方で用いられている方言。地域によって微妙な語彙の変化があり、おおむね荒川を境に東西に分けることができる。隣接する群馬県山梨県の方言との共通点が多く見受けられる。

文法

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~かさぁ?
~かい?、〜かな?
~かぁねぇけぇ
~くはないかい
〜がんす
〜ございます
~したでぇ
~したよ
〜しろぃな
〜しなよ
~すらっといい
~しなくてもいい
~すべぇか?
~しようか?
~だんべぇ
~でしょ
~なんよ
~なんだよ
~なさわぎ
おおげさに~なこと(いてぇ騒ぎ=痛くてしょうがない)
~やるべぇ
~やろう
~つぅんなぁ
~と聞いたよ
~さんねぇ
~できない
〜むし
〜ですね(そうだむし=そうですね)

語彙

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あ行

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あがりはな
家の登り口、上がり端
あがりこむ
寄り込む
あしっつるし
アシナガバチ
あちぃにあたる
日射病になる、暑いに中る
あちゃ
それでは
朝っぱか
朝飯前の仕事
朝っぱら
朝早く
あっぱーめく
慌てふためく
当てこたーねー
とんでもない
あなっこ
(掘った)穴
あぶらげずし
稲荷寿司
あらいまて
食器類を洗うこと
ありんどう
あり
あんき
安心
いいあんべぇ
良い具合、良い塩梅
いいかげんずっぽ
でたらめ
いくらか
ちょっとずつ、少し
いごく
動く
いっける
載せる
いってんべー
行ってみよう、(他人の家などに寄っている場合に)帰ろう
いどころね
うたた寝
うしい
薄い
うちゃぁる
捨てる、打ち捨てる
うっかく、おっかく
折る、打ち欠く、折り欠く
うっぽぉーる
放り投げる
腕っこき
力の限り、精一杯
うんと
沢山
うんまける
空にする
えーまち
怪我すること
えこっか
にこにこと
えっこはっこ
(愛想)笑いを浮かべて
えってみる、えんでみる
帰る
えら
沢山
えらいさわぎだ
大変なことになっている
えれぇ
偉い、大変
えれる
入れる
えんこする
座る
えんでみる
帰る、失礼する
おあがんな
召し上がれ
おおごと
大変なこと
おおしんつく
ツクツクボウシ
おくり
おごっつぉう
御ご馳走、大ご馳走
おごと
つらい、大変な事
おこんじょう
意地が悪い
おーだあげる
油を売る
おっかあ
自分の奥さん
おっかけとく
立てかけておく、負い掛けておく
おっきりこみ
太く短いうどん
おっくう
めんどう、億劫
おっくじく
挫く
おっこくる
押し出す
おっとう
自分の旦那さん
おっそろし~
感嘆した時、とんでもない事象に関して言う(言い方としては、口を「あ」を言うように開け「お」と発音する)
おっぺす
押す、(女性を)押し倒す
おでんげえり
出戻り
おてんたら
おせいじ
おとこし
男の人、男衆
おひまち
月に一度集落内の一家庭に集まり、その家庭で夕飯をいただく行事(現在は廃れている)
おらぁ
自分のこと
おらがち
私の家
おらがほう、おらほぅ
私の方
おんなし
女の人、女衆

か行

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  • がいこう:お世辞
  • がいこうをぶつ:お世辞をいう
  • かう:あてがう
  • かえりばち:頂き物をした時にするお返し物、返り鉢
かかあ
奥さん
かかりゅーど
すねかじり、ニート
がしょーき(=がとー)
がむしゃら、乱暴
かせる
かぶれる
かてめし
混ぜご飯
かてる
まぜる
かんます
かき混ぜる、掻き回す
~きし
~だけ、~ぐらいしか
ぎっつ
バッタ
きない
来(こ)ない
きやぁしねぇ
まだ来ない
きもがいれる
いらいらする、腹が立つ
くでぇ
くどい
くなげーし
繰り返し
くもりっぴ
曇りの日
くれらぁ
あげる
くんろい
頂戴
~げぇ
~(人物)に
げぇーやねぇ
つまらない
けぇりしな
帰りながら、帰りしな
けぇる
帰る
けぇるべぇ、けぇるんべぇ
帰ろう
けち、けちなもん
粗末なもの、クセの悪い人
けちく
妙に
げっとこしょー
ヒキガエル(=べっとこしょー)
けなりー
うらやましい
ごうぎ
立派なこと
こうに
こういう風に
こうしゃく
雑談
こげたま
沢山(こげーたま、とも)
こしご
腰につけるかご、腰籠
こじゅうはん
間食
こすい
ケチ
こせぇる
作る
こっぱ
木片
こてえさんねぇ
たまらない、堪えられない
こわい
堅い
こんがらかる
複雑になる

さ行

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さーねー
世話はない、心配ない(=あんじゃーねー)
さくい
気さく
さっぽぉる
放り投げる(=うっぽぉーる)
さみぃ
寒い
さんざ
十分に、過ぎるほど
しぃ
何々するひと。英語のerに相当(例:パチンコしぃ=パチンカー)
じいじいやき
ニイニイゼミ
じみぃいう
(地味を言う)ぜいたくを言う
しゃなぐる
かきむしる、払いのける
じゃんじゃりき
山肌の露出したゆるやかな崖
じゅうくう
生意気
しょんべん
小便
しりゃあしねぇ
知らない
しわい
けち
じんじくする
似合う
ずいてる
生意気な
すけてくれぇ
手伝って
ずっぽおす
(思いがけないことが)うまくいく ※1
ずでぇ
かなり
スムース
スムーズ。「甘酒祭り」を「あまさけまつり」と発音するなど、清音で発音する傾向がある。
すんべぇ
しましょう
せっちょうする
世話する
せやぁねぇ
大丈夫
そうだむし
そうですね
そうでがんす
その通り
そおけぇ
そうですか
そおなん
そうなんですか
そそらっぺぇ
いい加減
そらっこと
でたらめな事
そらっぺぇ
でたらめを言う事
ぞんぜえる
態度が大きい
そんぬぐれぇ
そのぐらい

た行

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だけんども
だけど
だごうしゃく
くだらない話をすること
たまか
つつましい
たらっぺ
たらの芽
ちっとんべえ
少し
ちょうきゅう
正確
つぐひ
翌日
つっこくる
つつく
つっとさる
入る、ささる
つっとおす
突き通す
つぶあし
素足
つるっとく
吊るして置く
つっぺぇしこむ
押し込む
つみっこ
すいとん
つんつるてんてん
つんつるてん
つんのめる
そっくり返る
つんむぐる
水に潜る
つんもす
燃やすこと
てえ
人たち
てぇーら
平ら
てえげえ
たいがい
でぇろ
カタツムリ
てんぐるま
かたぐるま
てんごうべえしている
いたずらばかりしている
てんでぇに
それぞれに
どうに
どういう風に
とばっくち
入り口付近、一番手前
とぶ
走る
とんする
仲間に入れる

な行

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なから
かなり
なす
返す
なびる
ぬる
なるい
なだらか
なんだんべえ
何だろう
にかしにする
邪魔にする
ぬきい・ぬくい
あったかい
ねっくそをきる
前転をする
のしていく
早足でいく
のす
スピードを出す
のしてんまわる
スピードを出して走り回る
のめっけー
つるつるしてる(=のめっこい)
のめっこい
(=のめっけー)

は行

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所、場所
はあ
もう
ばきゃあろめ
馬鹿野郎め
はぎる
(はさみで)切る
はしっけぇ
すばしこい
はだかでぇろ
ナメクジ
はっくりげえす
(根元から)倒す
はっこう
早く来い
ひぃる
ヒル(蛭)
ひがっぷしい
まぶしい
ひだりい
お腹が空いてる
ひっちょる
背負う
ひっぽおす
(風呂などの)水を抜く
ひもし
焚き火
ひゃっけえ
冷たい
ひょうぎゃあねえや
たいした事は無い
ぶーたん
カブトムシのメス(荒川東岸)
ふえんどう
スズメバチ
ぶき
不器用
ぶちかる
あぐらをかく
ふっこし
かざはな
ぶっこぬき
瓜二つ
ぶっつむ
積む
ぶっぱたく
叩く
ぶに
(~の)分
ふんぐりげえし
ねんざ
ふんごむ
泥などに足を取られること
ふんとけえ
本当かい
ぶんやん
ホームレス
~べえ
~だらけ
へえる
入る
へげる
はげる
べっちょ
女性器
べっとこしょー
ヒキガエル(=げっとこしょー)
べべっこうしゃく
卑猥な話
ほうじゃく
スズメバチ(特に大きいもの)
ほうぼう
いろいろな所
ほうる
なげる(放り投げると同意)
ほそっぴ
やせているひと
ほっかい
そうなのかい
ほりっこ
堀・側溝
ほりねえ
はずかしい

ま行

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まぐそ・まぐそがんのう
カブトムシのメス(荒川西岸)
まず
まったくもって
まーさか・まーさかまあ
ずいぶんと
まったくねぇ
まったくその通りだね
まっと
もっと
むぐす
(便を)もらす
むぐってぇー
くすぐったい
むる
漏れる
むるい
弱い
めかご
ものもらい
めたらっこ
でたらめ
めっかんねえ
見つからない
めっためった
何度も何度も
めめず
ミミズ
めめんたろう
ミミズ
もちにいく
取りに行く

や行

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やごろ
そのうち
やっけぇ
めんどう、やわらかい(発音のしかたによる)
やまんね
山のふもとの方((「山の根」から)
ゆんべ
昨晩
ようる
触る
よええ
弱い
よげ
良さそう
よげになる
うぬぼれる
よおっぱり
夜更かし
よかんべぇ
よかろう
よさげ
良さそう(=よげ)
よた
弱虫
よめいごと
愚痴
よめご
お嫁さん

わ行

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わきゃあねえ
簡単
わけえし
若い人
わざと
少し
わっくさ
カメムシ
わりいんね
ありがとう
わるげ
悪そう
わるさ
いたずら

補足

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  • ※1麻雀のカンチャン待ちをツモったときによく使う。
  • 「ぶっつむ」や「おっかく」など接頭辞が多い。
  • 行動を表すときに「お世話になる」ということが多い。(例:お茶ぁいっぺえお世話になるべえ=お茶を一杯いただきましょう)なお「お世話になります」はこの地域では挨拶として使われる。ときに敬語形として、「お世話さまになります」も使用する。ちなみに帰りの挨拶は「お世話になりました」である。
  • 「まち」が「祭り」を指すことがある。(例:はあ秩父のまちがくらい=もうすぐ秩父夜祭ですね)

音韻

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とくに荒川左岸(西側)では「んで終わる主語」+「を、は」は連声する。(例:「本の取ってくれい」(本を取ってくれ) 「○○さんなはぁけぇったん?」(○○さんはもう帰ったの?)

アクセント・イントネーション

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秩父弁はアクセントが非常に明確であり、アクセントの高低差はおそらくは標準語よりも大きい。寺尾地区などでよく使われる「どーしたい?」(おおむねWhat's up?の意で、親しい者同士のあいさつのことば)という表現は「-」の部分を高く発話するが、その高低差は関東方言の中では最大級である。

関連項目

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