童貞判別法
童貞判別法(どうていはんべつほう)は、1970年代に日本で誕生した俗説で、男性の外見的要素や特徴、性格などから童貞か否かを見分けることが出来るとされる言説群[1]。
概要
[編集]童貞判別法は、学術的根拠の無い「女性の語り」という形態で1970年代から1990年代にかけて形作られた言説のひとつで、集約された情報は普遍的な童貞像として形成されることとなる。社会学者の渋谷知美は自著『日本の童貞』の中で「全ての言説はそうした予見の結果について触れられておらず、確度についても述べられていない」としており、こうした雑誌記事に登場する「童貞は見れば分かる」と主張する女性は架空の人物であろう、と結論付けている[2]。
俗説の起こり
[編集]外見的要素から童貞を判別できるかどうかについて初めて言及がなされたのは1965年の雑誌『平凡パンチ』であった[3]。それからしばらくの経過を経た1974年、雑誌『プレイボーイ』に「童貞鑑別法」という特集が組まれ、初めて童貞の可視化が試みられた[4]。以降、さまざまな雑誌に「童貞は見ればわかる」と主張する「女性」が登場し[5]、その外見的要素や特徴を語り始めるようになる。こうした言説が繰り返された結果、1980年代にはいくつかのパターンに分類された「典型的な童貞像」という概念が誕生している。
1990年代に入ると形成された既存の童貞像を打ち破ろうとする動きが見られるようになり、1990年の『メンズノンノ』を皮切りに「格好良い童貞像」が語られるようになった[6]。童貞に対して好意的な眼を向ける言説が登場したことから童貞像は多様化し、「○○であれば童貞」といった童貞判別法は次第に見られなくなっていった[7]。
外見的要素
[編集]童貞判別法によって抽出された外見的要素は「目がぎらついている」[8]、「女性を正視しない」[9]、「爪が汚い」[10]など多岐に渡り、また、「ニキビがあるのが童貞」[9]、「肌が綺麗なのが童貞」[10]など、相互に矛盾する言説も多数存在している。「ペニスが白いのは童貞」[11]といった医学的根拠の無い言説や、「鼻先を押下して二つに割れなかったら童貞」[12]といった迷信のような判別法も存在している。こうして蓄積されたさまざまな言説をもとに、1982年『ヤングレディ』においてはじめて童貞の外見的要素がパターン化された。ここでは「マザコン・ヒステリック型」「学者・理論先行型」「肉体コンプレックス型」の3パターンが掲載され、それぞれの特徴や性格、外見的要素が詳細に説明されている[13]。
脚注
[編集]- ^ 渋谷2003、p.198。
- ^ 渋谷2003、pp.212-213。
- ^ 渋谷2003、p.199。
- ^ 『プレイボーイ』(1974年10月1日) - 「童貞は男の勲章か!? 女のバージンとはまた違う"純潔"の意味を考える」
- ^ 渋谷は1952年から2002年までに発売された雑誌から「童貞は見て分かる」という言説を抽出して調査した結果、その話者が全て女性であったと報告している。(渋谷2003、p.212。)
- ^ 『メンズノンノ』(1990年7月) - 「M-Serious 童貞クン、20歳の主張」
- ^ 渋谷2003、p.214。
- ^ 『アサヒ芸能』(1973年1月18日) - 「父親必読 成人の日特集 男女のいろはも知らない20歳の童貞」
- ^ a b 『平凡パンチ』(1988年9月1日) - 「みんな童貞少年だった」
- ^ a b 『アサヒ芸能』(1987年3月19日) - 「美味しい女のドッキリ・トーク 一目で分かる童貞クン」
- ^ 『平凡パンチ』(1976年4月5日) - 「ワイド企画Q&A方式 童貞5つの悩み解消大事典」
- ^ 『女性セブン』(1979年4月12日) - 「個性的な春を生きるわが町のチャンピオン童貞鑑定」
- ^ 『ヤングレディ』(1982年2月6日) - 「君知るや、童貞クンの哀しさを…ああ絶句!!」
参考文献
[編集]- 渋谷知美『日本の童貞』文藝春秋、2003年。ISBN 4-16-660316-7。
- 『週刊プレイボーイ』(1974年10月1日、集英社)
- 『MEN'S NON-NO』(1990年7月、集英社)
- 『週刊アサヒ芸能』(1973年1月18日,1987年3月19日、徳間書店)
- 『週刊平凡パンチ』(1988年9月1日,1976年4月5日、マガジンハウス)
- 『週刊女性セブン』(1979年4月12日、小学館)
- 『週刊ヤングレディ』(1982年2月6日、講談社)