2011年のワールドシリーズ
2011年のワールドシリーズ | |||||||
最終第7戦の様子 | |||||||
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シリーズ情報 | |||||||
試合日程 | 10月19日–28日 | ||||||
観客動員 | 7試合合計:34万2878人 1試合平均: 4万8983人 | ||||||
MVP | デビッド・フリース(STL) | ||||||
責任審判 | ジェリー・レイン[1] | ||||||
ALCS | TEX 4–2 DET | ||||||
NLCS | STL 4–2 MIL | ||||||
殿堂表彰者 | トニー・ラルーサ(STL監督) エイドリアン・ベルトレ(TEX内野手) | ||||||
チーム情報 | |||||||
セントルイス・カージナルス(STL) | |||||||
シリーズ出場 | 5年ぶり18回目 | ||||||
GM | ジョン・モゼリアク | ||||||
監督 | トニー・ラルーサ | ||||||
シーズン成績 | 90勝72敗・勝率.556 NL中地区2位=ワイルドカード | ||||||
分配金 | 選手1人あたり32万3169.98ドル[2] | ||||||
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テキサス・レンジャーズ(TEX) | |||||||
シリーズ出場 | 2年連続 | 2回目||||||
GM | ジョン・ダニエルズ | ||||||
監督 | ロン・ワシントン | ||||||
シーズン成績 | 96勝66敗・勝率.593 AL西地区優勝 | ||||||
分配金 | 選手1人あたり25万1515.76ドル[2] | ||||||
全米テレビ中継 | |||||||
放送局 | FOX | ||||||
実況 | ジョー・バック | ||||||
解説 | ティム・マッカーバー | ||||||
平均視聴率 | 10.0%(前年比1.6ポイント上昇) | ||||||
ワールドシリーズ
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2011年の野球において、メジャーリーグベースボール(MLB)優勝決定戦の第107回ワールドシリーズ(英語: 107th World Series)は、10月19日から28日にかけて計7試合が開催された。その結果、セントルイス・カージナルス(ナショナルリーグ)がテキサス・レンジャーズ(アメリカンリーグ)を4勝3敗で下し、5年ぶり11回目の優勝を果たした。
概要
[編集]10月15日にまずアメリカンリーグでテキサス・レンジャーズ(西地区)が、そして翌日にはナショナルリーグでセントルイス・カージナルス(中地区)が、それぞれリーグ優勝を決めてワールドシリーズへ駒を進めた。レンジャーズは厚い選手層を武器にこの年のレギュラーシーズンを進めていき、5月中旬以降はずっと地区首位の座を譲らぬまま、2年連続のポストシーズン進出を球団史上最高勝率で飾った。地区シリーズではタンパベイ・レイズを、リーグ優勝決定戦ではデトロイト・タイガースを下して、2年連続2度目のワールドシリーズ進出となった。一方、この年のカージナルスは故障者や不振に陥る選手が多く、8月下旬の時点ではポストシーズン進出圏から大きく離されていたが、残り1か月で逆転してワイルドカードを獲得した。地区シリーズではフィラデルフィア・フィリーズを、リーグ優勝決定戦ではミルウォーキー・ブルワーズを破って、5年ぶり18度目のワールドシリーズ進出を果たした。
レンジャーズは球団創設51年目で初めての優勝を、カージナルスは前回出場の2006年以来11度目の優勝を、それぞれ目指して今シリーズに臨んだ。カージナルスの本拠地ブッシュ・スタジアムで行われた第1戦と第2戦は、ともに1点差の接戦となった。いずれの試合でも好機に代打として打席に立ったアレン・クレイグが、先発投手に代わって登板したアレクシー・オガンドから適時打を放ち、カージナルスが1点を先行する展開になった。第1戦はそのままカージナルスが継投でリードを守って逃げ切り、第2戦はレンジャーズが9回に2点を奪い逆転勝ちした。続く3試合はレンジャーズの本拠地レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントンへ移動して行われた。第3戦はカージナルスが、アルバート・プホルスがシリーズ史上3人目・4度目となる1試合3本塁打を記録するなど、16得点を挙げる大勝を収めた。だがレンジャーズも連敗は許さず、第4戦はデレク・ホランドが相手打線を8.1回2安打無失点に抑える好投を見せて勝利し、対戦成績を2勝2敗のタイに戻した。レンジャーズは第5戦も相手の継投ミスに乗じて制し、連勝でワールドシリーズ初優勝に王手をかけた。
ブッシュ・スタジアムに戻っての第6戦は、中盤までは両チームともミスを連発し、6回を終えた時点では4-4の同点だった。そこからレンジャーズがエイドリアン・ベルトレの本塁打などで勝ち越し、2点リードで迎えた9回裏も塁上に2走者を背負いながら、あとストライク1球で勝利というところまで迫った。しかしデビッド・フリースが三塁打を放って2走者を還し、カージナルスが敗退の瀬戸際から同点に追いついた。レンジャーズは延長10回表にジョシュ・ハミルトンの本塁打で再びリードを得て、その裏にあとストライク1球で優勝という場面をもう一度作った。ところがカージナルスはランス・バークマンの適時打でまたも同点にした。そして11回裏にフリースのサヨナラ本塁打が飛び出し、カージナルスがシリーズの行方を最終第7戦に持ち込んだ。ワールドシリーズでは9年ぶりとなる第7戦は、初回にレンジャーズが先制したものの、カージナルスがフリースの適時打ですぐさま追いつくと、3回にはクレイグの本塁打で逆転した。これが決勝点となってカージナルスがレンジャーズに勝利し、4勝3敗で5年ぶり11度目のシリーズ制覇を成し遂げた。シリーズMVPにはフリースが選ばれた。
シリーズ終了後、カージナルスの中心人物ふたりが相次いで球団を去った。ひとりは監督のトニー・ラルーサで、今シリーズ限りで監督業を引退した。もうひとりは中心打者のプホルスで、他球団へFA移籍した。これにより、カージナルスの球団史にひとつの区切りがつけられることとなった。そのプホルスの移籍先はレンジャーズと同じアメリカンリーグ西地区のロサンゼルス・エンゼルスで、エンゼルスはさらにレンジャーズからFAとなったC.J.ウィルソンも獲得した。同地区球団の大型補強に対し、レンジャーズも巨費を投じて日本プロ野球からダルビッシュ有を獲得するなど戦力強化を進め、2012年のシーズンに臨む態勢を整えていった。
アメリカ合衆国内におけるテレビ中継はFOXが行い、全7試合の平均視聴率は10.0%だった。最終第7戦の平均視聴者数は2540万人で、2004年のシリーズ第4戦以来の多さだった。2011年のワールドシリーズは複数のメディアによって、シリーズ史上屈指の名勝負のひとつとして評価されている。
ワールドシリーズまでの道のり
[編集]テキサス・レンジャーズの2011年
[編集]まず先にワールドシリーズ進出を決めたのはテキサス・レンジャーズだった。10月15日、デトロイト・タイガースとのアメリカンリーグ優勝決定戦を4勝2敗で制し、2年連続2回目のワールドシリーズ進出となった。
この前年の2010年、レンジャーズは90勝72敗でアメリカンリーグ西地区を11年ぶりに制し、ポストシーズンも勝ち進んで球団創設50年目で初のリーグ優勝を成し遂げる。しかしナショナルリーグ王者サンフランシスコ・ジャイアンツと対戦したワールドシリーズには1勝4敗で敗れた。シーズン終了後には、エース左腕クリフ・リーや指名打者ブラディミール・ゲレーロ、正捕手ベンジー・モリーナらがFAに。チームは、このうちリーの残留を目指していたが、リーは最終的にフィラデルフィア・フィリーズへの移籍を選んだ[3]。彼が抜けた先発ローテーションの穴を埋めようと、マット・ガーザやザック・グレインキーなどをトレードで獲得しようとするも交渉はまとまらず[注 1]、最終的にはエース級投手の獲得を諦めて三塁手のエイドリアン・ベルトレと契約し、内野守備と打線を強化した[4]。この補強により三塁のポジションを奪われて指名打者兼ユーティリティーとなったマイケル・ヤングが、チームに対しトレードを要求する一幕もあったが[5]、最終的に彼はこの起用法を受け入れ残留している。リー残留に熱心だったのとは対照的に、ゲレーロやB・モリーナら他のFA選手は引き止めず、ヨービット・トレアルバとマイク・ナポリの2捕手を獲得。捕手のポジションはインサイドワークに優れたトレアルバを中心に起用し、打撃のいいナポリは捕手以外に一塁手や指名打者としても出場させる構想を描いた[6]。リーがいなくなった先発陣はスプリングトレーニングを経て、救援右腕アレクシー・オガンドを先発へ転向させることに決めた[7]。
2011年、レンジャーズは4月1日の開幕戦から6連勝と好スタートを切ることに成功するが、その後は野手と救援投手に故障者が相次ぐ。野手陣ではまず同月13日にジョシュ・ハミルトンが、前日の試合で三塁から本塁へ突入した際に右上腕を骨折して故障者リスト入り[8]。続いて5月4日には、ネルソン・クルーズも右大腿四頭筋痛で故障者リスト入りとなった[9]。ハミルトン離脱から彼らふたりが5月23日に揃って復帰するまでの間、チームは15勝21敗と負けが先行した。救援投手陣では、抑えのネフタリ・フェリスが4月21日に右肩炎症で[10]、同月27日にはセットアップのダレン・オデイが左股関節唇損傷で[11]、それぞれ故障者リスト入りし離脱する。フェリスは5月6日に復帰するも奪三振率が前年から低下するなど投球の質が落ち、オデイは手術を受けたため7月2日まで復帰できない長期欠場となった。ただ、このような離脱者続出の状況でもレンジャーズは、5月16日以降は地区首位の座を維持したままシーズンを進めていく。前半戦92試合を終えた7月10日の時点でも、2位のロサンゼルス・エンゼルスとはわずか1.0ゲーム差ながら首位のまま。この時点でのチームの1試合平均得点は4.97で、ハミルトンらが一時的に抜けてもなおリーグ3位の高水準だった。1番打者イアン・キンズラーと2番打者エルビス・アンドラスはともに盗塁と得点の両部門でリーグ11位以内と、ふたりが足で好機を作って中軸が還す流れができていた。チーム最多打点は新加入のベルトレで71打点、その次が彼にポジションを奪われたヤングの59打点で、このふたりは練習ではキャッチボールのペアを組むなど、開幕前に起こったトレード騒動の影響も感じさせていない[12]。投手陣は、救援防御率が4.57でリーグ12位と低迷したのに対して、先発ローテーションはクオリティ・スタート達成数が57でリーグ3位と安定。自身初の開幕投手を務めたC.J.ウィルソンは制球力が向上し9勝3敗・防御率3.20、先発転向のオガンドは初先発初勝利からの7連勝を含む9勝3敗・防御率2.92という成績を残した。
7月14日から後半戦が始まり8試合を消化したところで、今度はベルトレが左ハムストリング痛によって故障者リスト入りとなる[13]。彼が欠場している間は、主にヤングが三塁手として出場した。ヤングはシーズンを通して、内野の各ポジションで欠場者が出たときなどは代役として守備に就きつつ[注 2]、打撃でも打率.330前後の順調なペースで安打と打点を積み重ねていき、その存在は試合に臨む姿勢も含めてチームメイトから高く評価された[14]。加えてナポリが後半戦に入って調子を上げ、OPS 1.000超と強打を発揮する。このように野手陣には故障者が出ても穴埋めできる層の厚さがあったことから、チームは7月31日のトレード締切日を前に、弱点の救援投手陣を補強すべく他球団との交渉を進めていった。その結果、ボルチモア・オリオールズから上原浩治を、サンディエゴ・パドレスからマイク・アダムスを、それぞれ獲得する[15]。8月以降、上原は被本塁打の増加に苦しみ成績を落としたが、アダムスはオデイに代わる新セットアップに定着して好投を続け、またこの頃から抑えのフェリスも復調するなど、補強後は全体的に状況が改善された。救援防御率は前半戦の4.57から後半戦は3.53と1点以上良くなり、救援敗戦数も前半戦は92試合中17試合あったのが後半戦は70試合中9試合に減っている[16]。戦力強化に成功したレンジャーズの勝率はさらに上がり、2位エンゼルスとのゲーム差は8月17日時点で7.0まで開く。エンゼルスもそこから食い下がって9月10日時点で1.5ゲーム差まで縮めたものの、最後は再びレンジャーズが突き放して、同月23日に2年連続の地区優勝を決めた[17]。この年、打線が1試合平均5.28得点を奪ったのに対して投手陣はチーム防御率を3.79に抑え、得失点差+178はリーグ2位の高さ。ヤングがチーム最多の106打点を挙げ移籍1年目のベルトレとナポリがともに30本塁打に到達、一方で球団史上初めて先発投手5人が二桁勝利を記録するなど[18]、投打に豊富な戦力を擁して96勝66敗・勝率.593と球団の最高勝率記録を更新するシーズンを送った。
ポストシーズンでは日程上、先発ローテーションをレギュラーシーズンよりひとり少ない人数で回せるため、レンジャーズはオガンドを先発から救援へ再転向させる[19]。オガンドは後半戦の成績が4勝5敗・防御率4.48と、前半戦と比べて調子を落としていた。地区シリーズは、前年に引き続き2年連続でタンパベイ・レイズとの対戦に。レイズはレギュラーシーズン最終戦でのサヨナラ勝利によって、逆転で東地区2位となってワイルドカードを決めるという劇的な形で勝ち上がってきた。シリーズ初戦、レンジャーズは投手陣が9失点と打ち込まれる一方で打線は2安打零封という完敗を喫する[20]。しかし第2戦・第3戦と相手に先制を許しながらも逆転勝ちで連勝すると、第4戦ではベルトレが3打席連続のソロ本塁打を放って1点差の接戦を制し[21]、3勝1敗でレイズを下した。リーグ優勝決定戦では中地区優勝のタイガースと戦う。タイガースは野手に故障者を多く抱えていて代走を出す余裕すらなく、また信頼が置ける投手の数も限られており、シリーズは選手層の厚さで上回るレンジャーズ優位の展開で進んでいく[22]。このシリーズではクルーズが好調で、初戦では相手エースのジャスティン・バーランダーからソロ本塁打[23]、第2戦では延長11回にポストシーズン史上初のサヨナラ満塁本塁打[24]、第4戦では外野守備で相手の勝ち越し点を防ぐ補殺[25]、など攻守に活躍を見せた。レンジャーズは3勝1敗とワールドシリーズ進出に王手をかけ、迎えた第5戦こそバーランダーを打ち崩せず敗れたものの[26]、第6戦に17安打15得点の猛攻で勝利を収め[27]、4勝2敗でタイガースを破った。この2シリーズを通して、オガンドは10試合中7試合に登板。10.1イニングを投げ2勝0敗3ホールド・防御率0.87・奪三振率10.5と相手打者を抑え込み、ワールドシリーズへ向けてレンジャーズ救援投手陣の切り札的存在となった。
セントルイス・カージナルスの2011年
[編集]レンジャーズに続いて10月16日には、セントルイス・カージナルスもワールドシリーズ進出を決めた。ミルウォーキー・ブルワーズとのナショナルリーグ優勝決定戦に4勝2敗で勝利し、ワールドシリーズ進出はこれで5年ぶり18回目である。
カージナルスは2010年、86勝76敗でナショナルリーグ中地区2位となり、ワイルドカード争いで東地区2位のアトランタ・ブレーブスを上回れずポストシーズン進出を逃した。7月終了時点では地区首位に立っていたが8月以降を28勝30敗と負け越し、シンシナティ・レッズに逆転を許した。9月上旬には、若手外野手のコルビー・ラスムスが起用法への不満からトレードを要求したと報じられ、これに対し主砲アルバート・プホルスが「彼が来年ここにいたくないと言うのなら出て行ってもらって、代わりの人材を探すしかない」と批判する騒動が起こっている[28]。シーズン終了後、チームはまずプホルスとの契約オプションを行使して彼を残留させ[注 3][29]、続いて監督のトニー・ラルーサとも契約を1年延長[30]。一方でラルーサとの確執が伝えられたラスムスも放出せずにチームに残した。その他のオフの動きとして、遊撃のポジションにはブレンダン・ライアンに代わってライアン・テリオを入れ[31]、二塁・三塁・遊撃の3ポジションをこなせる両打ちのニック・プントを控えとして獲得[32]。またランス・バークマンとも1年契約を交わし、2008年以降3年間は一塁でしか守備に就いていなかった彼を外野にコンバートすることで打線の強化を図った[33]。こうして2011年のシーズンに向け補強を進めていったカージナルスだったが、クリス・カーペンターと並ぶ先発ローテーションの柱のアダム・ウェインライトが2月下旬に右肘痛を訴え、トミー・ジョン手術を受けたことによってシーズンの全休が決まるというアクシデントに見舞われる[34]。
誤算はシーズン開幕後も続いた。3月31日のシーズン開幕戦では、9回に登板した抑えのライアン・フランクリンが1点リードを守りきれずに追いつかれ、延長戦の末に逆転負けを喫する[35]。この試合を含めて5度のセーブ機会中4度の失敗と乱調から立ち直ることができなかったフランクリンは、4月19日に抑えの役割を剥奪された[36]。それからおよそ10日間で4人がセーブを挙げるという一時的な抑え不在の状態になり[37]、5月下旬にフェルナンド・サラスが定着するまではミッチェル・ボッグスやエドゥアルド・サンチェスらが数試合ずつ起用された。フランクリンは6月29日に解雇されている[38]。野手ではマット・ホリデイをはじめ、デビッド・フリースやプントら故障者リスト入りする選手が続出し、加えてプホルスは長期間のスランプに陥った[39]。開幕戦で5打数無安打3併殺打と完璧に抑えられ[35]、そこから5月終了までの2か月間は全試合に出場していながら、打率.267・OPS.755で年間26本塁打・46併殺打ペースと、成績が軒並み自己最低レベルに落ち込む。さらに6月に入ると、3日から7日までの4試合で5本塁打を放つなど復調の兆しがみられたが[40]、それも束の間、19日の試合で一塁守備中に相手走者と交錯して負傷交代することに。診断結果は左手首の骨折で全治6週間というもので、故障者リスト入りを余儀なくされた[41]。この主砲の不振を補ったのは新加入のバークマンで、7月10日の前半戦92試合終了時点でリーグトップの24本塁打・OPS 1.006という打撃成績を残しただけでなく、プホルス欠場時には代わりに一塁守備にも就いている。この結果、ウェインライトが抜けた投手陣は防御率が3.97でリーグ10位と平凡だったが、バークマンを中心とした打線は1試合平均得点がリーグ2位の4.71と高く、これを原動力としたチームはブルワーズとの地区首位争いを展開し、前半戦を49勝43敗の同率首位で終えた。そして長期離脱が見込まれていたプホルスは、前半戦終了直前にわずか15日間で故障者リストからの復帰を果たして[42]、後半戦に臨んだ。
両チームの並走状態は、その後半戦が7月14日から始まっても2週間ほど続く。カージナルスは31日のトレード締切日へ向けて投手陣を中心に補強に動き、まずトロント・ブルージェイズと4対4のトレードを成立させた。このトレードでは球団首脳との対立が表面化していたラスムスの放出に踏み切り、交換相手として先発投手のエドウィン・ジャクソンのほか、救援投手のオクタビオ・ドーテルやマーク・ゼプチンスキーらを獲得している[43]。またテリオが後半戦開始直後に打撃不振となると、ロサンゼルス・ドジャースからラファエル・ファーカルを手に入れた[44]。しかし8月に入って、ブルワーズが月間21勝7敗と大きく勝ち越す一方で、カージナルスは15勝13敗と足踏み。同月終了時点で両チームのゲーム差は8.5まで広がる。この月8試合あった直接対決は4勝4敗の五分であり、他の試合での取りこぼしが響いた。22日のドジャース戦ではサラスがシーズン5度目のセーブ失敗を記録して逆転負けし[45]、抑えの役割が今度はジェイソン・モットに移った[46]。ワイルドカード争いでも首位ブレーブスとのゲーム差が25日には10.5まで開く厳しい状況となり、ラルーサはのちに「8月末には来シーズンに向けて若手の使い方などを協議していたほどだ」と明かしている[47]。ただこの年のカージナルスは、シーズン終盤に負け越した前年とは異なり、残り31試合となったここから追い上げを見せる。これにブレーブスの投打の低迷による失速も重なって、両チームのゲーム差は徐々に縮まっていき、シーズンが残り1試合となった9月27日にはとうとう89勝72敗で並んだ。そして翌28日のレギュラーシーズン最終戦、まずカージナルスがヒューストン・アストロズに勝ち、そのおよそ75分後にブレーブスがフィラデルフィア・フィリーズに敗れたことで、カージナルスのワイルドカード獲得と2年ぶりのポストシーズン進出が決まった[48]。9月は、プホルスが打率.355・5本塁打・20打点・OPS.954[注 4]、カーペンターが最終戦での完封を含む3勝0敗・防御率2.15と、投打の中心選手がチームを牽引した。
勢いに乗るカージナルスは、ポストシーズンでも下馬評を覆して勝ち進んでいく。地区シリーズでは、レギュラーシーズンで30球団最高の102勝60敗・勝率.630という成績を残した東地区優勝のフィリーズと対戦。初戦に敗れるが翌日の第2戦には勝ち、第3戦に敗れるが翌日の第4戦には勝ち、と先行を許しながらも連敗はせずに追いつき、勝負の行方を最終第5戦に持ち込む。そして第5戦では、相手エースのロイ・ハラデイから打線が初回表に1点を先制すると、カーペンターがそれを9イニング守りきって完封勝利を挙げ[49]、3勝2敗でフィリーズを破り地区シリーズを突破した。このシリーズでは、カージナルスの地元ブッシュ・スタジアムでの試合中にフィールド上をリスが駆け回ったことも話題を集め、"Rally Squirrel" としてグッズが販売されるなどファンの間で人気となった[50]。続くリーグ優勝決定戦は、中地区で優勝を争ったブルワーズとの顔合わせに。レギュラーシーズンのチームOPSはカージナルスがリーグ最高の.766、ブルワーズがそれに次いで2位の.750という強打のチームどうしの対戦で、このシリーズも打ち合い主体となる。両チームとも先発投手のシリーズ防御率が7点台を記録するなか、カージナルスは救援投手を惜しみなく投入してはピンチを凌いでいった[51]。シリーズを通しての投手交代は28度にのぼっており、これは歴代2位の多さである[注 5][52]。2勝2敗で迎えた第5戦でも中盤、打席のライアン・ブラウンに本塁打を許せば3点リードを追いつかれるという場面となると、先発のハイメ・ガルシアからドーテルに継投してブラウンを三振に打ち取りピンチを脱出、以降は救援陣が無失点に抑えて試合をものにした[53]。カージナルスはこの勝利でワールドシリーズ進出まであと1勝に迫ると、第6戦でも打線が14安打12得点を奪って連勝[54]、4勝2敗でブルワーズとのシリーズを制した。
ホームフィールド・アドバンテージ
[編集]7月12日にアリゾナ州フェニックスのチェイス・フィールドで開催されたオールスターゲームは、ナショナルリーグがアメリカンリーグに5-1で勝利した。この結果、ワールドシリーズの第1・2・6・7戦を本拠地で開催できる "ホームフィールド・アドバンテージ" は、ナショナルリーグ優勝チームに与えられることになった[55]。このオールスターには、レンジャーズからはアレクシー・オガンドとC.J.ウィルソンの投手ふたりに、野手がエイドリアン・ベルトレとジョシュ・ハミルトン、そしてマイケル・ヤングの3人と、計5選手が選出された[56]。また前年のリーグ優勝監督がオールスターで指揮を執るため、アメリカンリーグの監督はロン・ワシントンが務めている。カージナルスからは投手は選出されず、ランス・バークマンとマット・ホリデイ、そしてヤディアー・モリーナの野手3人が名を連ねた[57]。試合では、レンジャーズの投手とカージナルスの打者の対戦はなかった。
この試合では、アメリカンリーグの1点リードで迎えた4回裏にプリンス・フィルダーがC・ウィルソンから逆転の3点本塁打を放ち、これが決勝点となってナショナルリーグが勝利したため、C・ウィルソンが敗戦投手となりフィルダーはオールスターMVPを受賞した[58]。フィルダーが所属するミルウォーキー・ブルワーズは前半戦終了時点で、カージナルスと並んで中地区首位とポストシーズン進出を狙える位置につけており、特に本拠地ミラー・パークでは勝率.702と強かった。ワールドシリーズに進出できれば本拠地でシリーズ開幕を迎えられることになり、フィルダーは「間違いなくうちにとって大きなプラスになると思う」と喜んだ[55]。しかしその後、ブルワーズはリーグ優勝決定戦でカージナルスに敗れ[54]、あと一歩のところでワールドシリーズ進出を逃した。
バークマンとC・ウィルソンの舌戦
[編集]ランス・バークマンはカージナルス入団決定後の1月下旬、テキサス州ヒューストンで地元のラジオ番組に出演した。そのなかで彼は、レンジャーズと契約する可能性もあったと明かしたうえで「クリフ・リーがいなくなったあそこは平凡なチーム」「本来の実力に比べて成績が良すぎる投手が何人かいる」と罵った[59]。レンジャーズのC.J.ウィルソンは、一連の発言を伝え聞くと「面白いことを言うね。(カージナルス入りを決める前には)引退しようかって迷ってた人の言うことなんか、まともに相手する必要もないよ」とやり返した[59]。
2011年シーズンのレンジャーズは、5月中旬以降は地区首位の座を譲らぬまま前半戦を終えた。オールスターゲームの際に、バークマンはアメリカンリーグのクラブハウスを訪ね、C・ウィルソンのロッカーに置き手紙を残していった。そこには「おめでとう、君のチームは好調だし君自身も素晴らしい投球をしている。僕が何かしらの間違いを犯すのは今に始まったことじゃないが、悪く思わないでほしい。ポストシーズンで会おう」と記されており、これがきっかけで両者は和解に至った[60]。
置き手紙の最後にあった言葉が現実となり、ワールドシリーズでの両チームの対戦が決まると、1月の出来事が再び注目を集めた。バークマンは「想像以上に騒ぎが大きくなってしまった。レンジャーズのことを悪く言うつもりはなかった」と釈明し、自らの誤りを認めた[61]。レンジャーズGMのジョン・ダニエルズは「今季の彼の活躍は目覚ましく、カージナルスがワールドシリーズに進出する原動力になった。そして例の発言も撤回したんだ、それで構わないじゃないか」と述べ、話を蒸し返さない意向を示した[61]。
両チームの過去の対戦
[編集]MLBでは1997年にインターリーグが導入され、アメリカンリーグ所属球団とナショナルリーグ所属球団の対戦がレギュラーシーズン中も行われるようになった。だがこの両チームによる対戦はこれまで、レンジャーズの本拠地アメリクエスト・フィールド・イン・アーリントン(球場名は当時)で2004年6月に3連戦が一度あったのみである。それはつまり、レンジャーズがミズーリ州セントルイスに遠征するのは今シリーズが球団史上初めて、ということを意味する[62]。両チームとも他の28球団との対戦は最低でも6試合は経験しているのに、このカードだけは過去に3試合しかなかった[63]。3試合というのはMLB全体でみても、ニューヨーク・メッツ対シカゴ・ホワイトソックスのカードと並んで最も少ない[62]。
その3連戦は、11日の初戦が12-7でカージナルスの勝ち、12日の第2戦が7-2でレンジャーズの勝ち、13日の最終戦が13-2でカージナルスの勝ち、と2勝1敗でカージナルスが勝ち越した[64]。当時のメンバーのうち今回のワールドシリーズにも臨む選手は、レンジャーズはマイケル・ヤングひとりのみ、カージナルスはアルバート・プホルスとヤディアー・モリーナ、そしてクリス・カーペンターの3人である[65]。3連戦の第2戦ではカーペンターが先発登板したが、6回途中7失点と打ち込まれて敗戦投手になっており、彼と4打席対戦したヤングは3打数2安打1四球という成績を残した[66]。それから7年が経った今シリーズを前に、この3連戦について訊かれたヤングは「えーっと、たしかカーペンターが3連戦のどこかで投げたんだっけ。それくらいしか覚えてないな、なにせ随分と前のことだからね」と答えた[67]。
ロースター
[編集]両チームの出場選手登録(ロースター)は以下の通り。
- 名前の横の★はこの年のオールスターゲームに選出された選手を、#はレギュラーシーズン開幕後に入団した選手を、◎はリーグ優勝決定戦MVP受賞者を示す。
- 年齢は今シリーズ開幕時点でのもの。
テキサス・レンジャーズ | セントルイス・カージナルス | ||||||||||||||||
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守備位置 | 背番号 | 出身 | 選手 | 投 | 打 | 年齢 | ワールドシリーズ経験 | 守備位置 | 背番号 | 出身 | 選手 | 投 | 打 | 年齢 | ワールドシリーズ経験 | ||
出場 | 優勝 | 出場 | 優勝 | ||||||||||||||
投手 | 37 | マイク・アダムス# | 右 | 右 | 33 | 初 | なし | 投手 | 41 | ミッチェル・ボッグス | 右 | 右 | 27 | 初 | なし | ||
39 | スコット・フェルドマン | 右 | 左 | 28 | 初 | なし | 29 | クリス・カーペンター | 右 | 右 | 36 | 5年ぶり2回目 | 1回 | ||||
30 | ネフタリ・フェリス | 右 | 右 | 23 | 2年連続2回目 | なし | 28 | オクタビオ・ドーテル# | 右 | 右 | 37 | 初 | なし | ||||
51 | マイク・ゴンザレス# | 左 | 右 | 33 | 初 | なし | 54 | ハイメ・ガルシア | 左 | 左 | 25 | 初 | なし | ||||
54 | マット・ハリソン | 左 | 左 | 26 | 初 | なし | 22 | エドウィン・ジャクソン# | 右 | 右 | 28 | 3年ぶり2回目 | なし | ||||
45 | デレク・ホランド | 左 | 両 | 25 | 2年連続2回目 | なし | 26 | カイル・ローシュ | 右 | 右 | 33 | 初 | なし | ||||
48 | コルビー・ルイス | 右 | 右 | 32 | 2年連続2回目 | なし | 62 | ランス・リン | 右 | 右 | 24 | 初 | なし | ||||
57 | マーク・ロウ | 右 | 左 | 28 | 2年連続2回目 | なし | 30 | ジェイソン・モット | 右 | 右 | 29 | 初 | なし | ||||
41 | アレクシー・オガンド★ | 右 | 右 | 28 | 2年連続2回目 | なし | 53 | アーサー・ローズ# | 左 | 左 | 41 | 初 | なし | ||||
28 | ダレン・オリバー | 左 | 右 | 41 | 2年連続2回目 | なし | 34 | マーク・ゼプチンスキー# | 左 | 左 | 26 | 初 | なし | ||||
36 | C.J.ウィルソン★ | 左 | 左 | 30 | 2年連続2回目 | なし | 59 | フェルナンド・サラス | 右 | 右 | 26 | 初 | なし | ||||
捕手 | 25 | マイク・ナポリ | 右 | 右 | 29 | 初 | なし | 35 | ジェイク・ウェストブルック | 右 | 右 | 34 | 初 | なし | |||
8 | ヨービット・トレアルバ | 右 | 右 | 33 | 4年ぶり2回目 | なし | 捕手 | 13 | ジェラルド・レアード | 右 | 右 | 31 | 初 | なし | |||
15 | マット・トレーナー# | 右 | 右 | 35 | 2年連続2回目 | なし | 4 | ヤディアー・モリーナ★ | 右 | 右 | 29 | 5年ぶり3回目 | 1回 | ||||
内野手 | 1 | エルビス・アンドラス | 右 | 右 | 23 | 2年連続2回目 | なし | 内野手 | 33 | ダニエル・デスカルソ | 右 | 左 | 25 | 初 | なし | ||
29 | エイドリアン・ベルトレ★ | 右 | 右 | 32 | 初 | なし | 23 | デビッド・フリース◎ | 右 | 右 | 28 | 初 | なし | ||||
6 | エステバン・ヘルマン | 右 | 右 | 33 | 初 | なし | 15 | ラファエル・ファーカル# | 右 | 両 | 33 | 初 | なし | ||||
5 | イアン・キンズラー | 右 | 右 | 29 | 2年連続2回目 | なし | 5 | アルバート・プホルス | 右 | 右 | 31 | 5年ぶり3回目 | 1回 | ||||
18 | ミッチ・モアランド | 左 | 左 | 26 | 2年連続2回目 | なし | 8 | ニック・プント | 右 | 両 | 33 | 初 | なし | ||||
10 | マイケル・ヤング★ | 右 | 右 | 35 | 2年連続2回目 | なし | 55 | スキップ・シューマッカー | 右 | 左 | 31 | 初 | なし | ||||
外野手 | 9 | エンディ・チャベス | 左 | 左 | 33 | 初 | なし | 3 | ライアン・テリオ | 右 | 右 | 31 | 初 | なし | |||
17 | ネルソン・クルーズ◎ | 右 | 右 | 31 | 2年連続2回目 | なし | 外野手 | 12 | ランス・バークマン★ | 左 | 両 | 35 | 6年ぶり2回目 | なし | |||
23 | クレイグ・ジェントリー | 右 | 右 | 27 | 初 | なし | 56 | アドロン・チェンバース[※] | 左 | 左 | 25 | 初 | なし | ||||
32 | ジョシュ・ハミルトン★ | 左 | 左 | 30 | 2年連続2回目 | なし | 21 | アレン・クレイグ | 右 | 右 | 27 | 初 | なし | ||||
7 | デビッド・マーフィー | 左 | 左 | 30 | 2年連続2回目 | なし | 7 | マット・ホリデイ★[※] | 右 | 右 | 31 | 4年ぶり2回目 | なし | ||||
19 | ジョン・ジェイ | 左 | 左 | 26 | 初 | なし |
- ※ 第6戦終了後にホリデイが故障のためロースターを外れ、第7戦はチェンバースが代わりに登録された。
レンジャーズはリーグ優勝決定戦のロースターから、救援投手の建山義紀と上原浩治に代えてマーク・ロウとマット・トレーナーを登録した[68]。ポストシーズンを通して、建山はリーグ優勝決定戦・第3戦の1試合0.2イニングしか登板機会がなく、上原は地区シリーズとリーグ優勝決定戦で計3試合に登板したがいずれの試合でも本塁打を浴びていた。彼らとの入れ替わりで登録された2選手のうち、ロウは救援投手でレギュラーシーズンは52試合投げたものの、左ハムストリングを痛め9月20日の試合を最後に登板がなかった。トレーナーは捕手で、投手の枠をひとつ減らして彼を入れたことによって、指名打者制が採用されない敵地ブッシュ・スタジアムでの試合で投手に打順がまわってきたときなど、同じく捕手のヨービット・トレアルバを右の代打として出しやすくなる[69]。
カージナルスはリーグ優勝決定戦から投手と野手をひとりずつ入れ替え、カイル・マクレランとアドロン・チェンバースを外してジェイク・ウェストブルックとスキップ・シューマッカーを登録した[70]。ウェストブルックとシューマッカーはふたりとも地区シリーズではロースター入りしており、ウェストブルックは登板機会がなかったが、シューマッカーはシリーズ5試合全てに出場して10打数6安打3打点という成績を残していた。ただ、そのシリーズ最終戦の第2打席で右脇腹を痛めて裏の守備から交代し、リーグ優勝決定戦ではウェストブルックとともにロースターを外れた。ワールドシリーズを迎えるにあたって、シューマッカーは痛みが和らいだことで出場が可能になったため、ロングリリーフ等がこなせるウェストブルックとともに再登録されることになった[71]。
カージナルスの救援左腕アーサー・ローズは、シーズン開幕から8月初頭まではレンジャーズに所属していた。しかし32試合24.1イニングで防御率4.81と結果を残せず、さらにマイク・アダムスが移籍してきたため、押し出される形で退団した[72]。FAとなった彼はその後、カージナルスと契約した。彼のもとにはフィラデルフィア・フィリーズやボストン・レッドソックス、それにニューヨーク・ヤンキースなど当時ポストシーズン進出圏内にいた複数の球団から契約の申し出があったというが、それらを差し置いてカージナルスを選んだのは、監督のトニー・ラルーサによる高評価が決め手だったという[73]。今回、両チームがシリーズ進出を決めた時点で、どちらのチームが勝利しても彼はその球団からチャンピオンリングを贈呈されることが決まった[74]。
開幕前の予想
[編集]ESPNが自社の記者26人にどちらが優勝するか予想させたところ、うち22人がレンジャーズと回答し、カージナルスと答えたのは4人だけだった[76]。『スポーツ・イラストレイテッド』も同様の企画を記者10人で行ったが、こちらもレンジャーズ支持が6人でカージナルス支持の4人を上回った[77]。『USAトゥデイ』に至っては、記者7人全員の意見がレンジャーズの優勝で一致した[78]。イリノイ州シカゴの野球博物館が『シカゴ・トリビューン』やWGN-TVなどの地元メディア24人にアンケートをとった結果も、レンジャーズ支持が過半数の15人に達した[79]。MLBネットワークの番組出演者では、司会者のグレッグ・アムシンガーこそ4勝3敗でカージナルスの優勝と予想したが、元選手の解説者ショーン・ケイシー、アル・ライター、ラリー・ボーワ、ミッチ・ウィリアムスの4人はいずれもレンジャーズを推した[75]。これに対し、トリビューン・カンパニー傘下3紙の記者による予想発表では、レンジャーズ支持は『ロサンゼルス・タイムズ』のケビン・バクスターのみであり、『ボルチモア・サン』のピーター・シュマックと『モーニング・コール』のキース・グローラーはカージナルス支持にまわった[80]。また『フィラデルフィア・デイリーニューズ』の記者投票でも、カージナルスが6人中4人の支持を集めた[81]。
ベースボール・プロスペクタスのスティーブン・ゴールドマンは、レンジャーズの救援投手陣の充実ぶりと打線の切れ目の無さ、守備の堅さを要点に挙げて「カージナルスはひとたびリードを許せば、そのまま追いつけないだろう」とし、レンジャーズの4勝2敗と予想した[82]。『スポーティング・ニュース』のアンソニー・ウィトラードは、攻撃力・投手力・守備力・控え選手層の4項目のうちカージナルスのほうが優れているのは控え選手層だけだと指摘し、打線と救援投手陣の良いレンジャーズが4勝2敗でシリーズを制すると見込んだ[83]。NBCスポーツのクレイグ・カルカテーラは「長所も短所も似ているチームどうしの戦い」としたうえで、救援投手陣と攻撃力でレンジャーズのほうがわずかに上とみなし、4勝3敗でレンジャーズの優勝と考えた[84]。その一方でFOXニュースは「机上の計算通りにいけばレンジャーズがきっと勝つだろう」と評しつつも、レギュラーシーズン最終盤から大方の予想を覆し続けてここまで来たカージナルスの勢いを買って、カージナルスが4勝2敗で優勝を果たすとした[85]。また芝山幹郎は、両チームが似たような形でポストシーズンを勝ち上がったことから選手の力量は互角とみなし、ロン・ワシントンとトニー・ラルーサの両監督による采配が差を生むとして「好漢ワシントンにシリーズ初制覇をプレゼントしたい気持もなくはないが、私はやはり名将ラルーサの相場勘に一票を投じたい」とカージナルスを推した[86]。
ソニー・コンピュータエンタテインメントの現地法人が、同社発売のコンピュータゲーム "MLB 11: The Show" で両チームを対戦させたところ、レンジャーズが4勝2敗で優勝するという結果が出た。その内容は、カージナルスがクリス・カーペンターの好投で初戦に勝利し、第3戦でも打ち合いを制して2勝1敗と先行するが、レンジャーズが第4・5戦と連勝して先に王手をかけると、第6戦ではジョシュ・ハミルトンが終盤に決勝打を放ちシリーズ制覇を決める、というものだった[87]。また、FOXスポーツ系列の "WhatIfSports.com" は独自のシステムを用い、シリーズのシミュレーションを計1001回にわたって行った。その結果は、優勝確率はレンジャーズが57.7%だったのに対してカージナルスが42.3%、試合数も含めて最も確率が高かった筋書きはレンジャーズの4勝3敗で19.6%だった[88]。
ネバダ州ラスベガスのカジノホテル "ラスベガス・ヒルトン" がつけたオッズは、レンジャーズが-150(1.67倍)なのに対してカージナルスは+120(2.20倍)だった[89]。また、オンラインカジノ "Bodog" のオッズでは、レンジャーズが-165(1.61倍)でカージナルスは+145(2.45倍)だった[90]。イギリスの大手ブックメーカー "ウィリアムヒル" は、レンジャーズの5/8(1.63倍)に対しカージナルスが7/5(2.40倍)というオッズをつけた[91]。これらは全て、レンジャーズのほうが優勝に近いとみられていることを表す数字である。
試合結果
[編集]2011年のワールドシリーズは10月19日に開幕し、途中に移動日と雨天順延を挟んで10日間で7試合が行われた。日程・結果は以下の通り。
日付 | 試合 | ビジター球団(先攻) | スコア | ホーム球団(後攻) | 開催球場 | |
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10月19日(水) | 第1戦 | テキサス・レンジャーズ | 2-3 | セントルイス・カージナルス | ブッシュ・スタジアム | |
10月20日(木) | 第2戦 | テキサス・レンジャーズ | 2-1 | セントルイス・カージナルス | ||
10月21日(金) | ||||||
10月22日(土) | 第3戦 | セントルイス・カージナルス | 16-7 | テキサス・レンジャーズ | レンジャーズ・ ボールパーク・イン・ アーリントン | |
10月23日(日) | 第4戦 | セントルイス・カージナルス | 0-4 | テキサス・レンジャーズ | ||
10月24日(月) | 第5戦 | セントルイス・カージナルス | 2-4 | テキサス・レンジャーズ | ||
10月25日(火) | ||||||
10月26日(水) | 雨天順延 | ブッシュ・スタジアム | ||||
10月27日(木) | 第6戦 | テキサス・レンジャーズ | 9-10x | セントルイス・カージナルス | ||
10月28日(金) | 第7戦 | テキサス・レンジャーズ | 2-6 | セントルイス・カージナルス | ||
優勝:セントルイス・カージナルス(4勝3敗 / 5年ぶり11度目) |
第1戦 10月19日
[編集]映像外部リンク | |
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動画共有サイト "YouTube" にMLB公式アカウントが投稿したハイライト映像(英語、4分26秒) |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E | |
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テキサス・レンジャーズ | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 6 | 0 |
セントルイス・カージナルス | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 1 | 0 | 0 | X | 3 | 6 | 0 |
- 勝利:クリス・カーペンター(1勝)
- セーブ:ジェイソン・モット(1S)
- 敗戦:C.J.ウィルソン(1敗)
- 本塁打
TEX:マイク・ナポリ1号2ラン - 審判
[球審]ジェリー・レイン
[塁審]一塁: グレッグ・ギブソン、二塁: アルフォンソ・マルケス、三塁: ロン・カルパ
[外審]左翼: テッド・バレット、右翼: ゲイリー・シダーストロム - 試合開始時刻: 中部夏時間(UTC-5)午後7時6分 試合時間: 3時間6分 観客: 4万6406人 気温: 49°F(9.4°C)
詳細: MLB.com Gameday / ESPN.com / Baseball-Reference.com / FanGraphs
テキサス・レンジャーズ | セントルイス・カージナルス | ||||||||
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打順 | 守備 | 選手 | 打席 | 打順 | 守備 | 選手 | 打席 | ||
1 | 二 | I・キンズラー | 右 | 1 | 遊 | R・ファーカル | 両 | ||
2 | 遊 | E・アンドラス | 右 | 2 | 中 | J・ジェイ | 左 | ||
3 | 中 | J・ハミルトン | 左 | 3 | 一 | A・プホルス | 右 | ||
4 | 一 | M・ヤング | 右 | 4 | 左 | M・ホリデイ | 右 | ||
5 | 三 | A・ベルトレ | 右 | 5 | 右 | L・バークマン | 両 | ||
6 | 右 | N・クルーズ | 右 | 6 | 三 | D・フリース | 右 | ||
7 | 捕 | M・ナポリ | 右 | 7 | 捕 | Y・モリーナ | 右 | ||
8 | 左 | D・マーフィー | 左 | 8 | 二 | N・プント | 両 | ||
9 | 投 | C・ウィルソン | 左 | 9 | 投 | C・カーペンター | 右 | ||
先発投手 | 投球 | 先発投手 | 投球 | ||||||
C・ウィルソン | 左 | C・カーペンター | 右 |
第107回ワールドシリーズは10月19日、カージナルスの本拠地ブッシュ・スタジアムで開幕を迎えた。この日はアメリカ合衆国大統領夫人ミシェル・オバマと同副大統領夫人ジル・バイデンがブッシュ・スタジアムを訪問した。MLBとホワイトハウスは、対テロ戦争の帰還兵や軍人とその家族を支援する活動に携わっているという共通点があり、MLBは "Welcome Back Veterans" に協賛、ホワイトハウスは "Joining Forces" キャンペーンを展開している[92]。活動の一環としてふたりは、イラク戦争で負傷した海兵隊上等兵ジェームズ・スペリーと彼の娘ハンナを連れて試合前のフィールドに姿を現し、スコッティ・マクリーリーによるアメリカ合衆国国歌『星条旗』独唱に参列した。第1戦の先発投手は、カージナルスはクリス・カーペンター、レンジャーズはC.J.ウィルソン。両球団ともこの年の開幕投手かつチーム最多投球回というエースを先発にたてた。両投手はともにこのポストシーズンで3試合に先発しているが、カーペンターが17.0イニングで2勝0敗・防御率3.71だったのに対し、C・ウィルソンは15.2イニングで0勝2敗・防御率8.04と打ち込まれている。
初回表、レンジャーズの先頭打者イアン・キンズラーに対してカーペンターが初球、外角へ92mph(約148.1km/h)のシンカーを投じてワールドシリーズが始まった。キンズラーは三塁手デビッド・フリースを強襲する内野安打で出塁する。2番エルビス・アンドラスの打席でレンジャーズはヒットエンドランを指示した[93]。しかし2球目にキンズラーがスタートを切ったものの、アンドラスはシンカーにバットを当てることができず空振りし、キンズラーも捕手ヤディアー・モリーナの送球で二塁タッチアウトと、作戦は失敗に終わった。ここから3イニングにわたって、両チームとも無得点のまま試合が進んでいく。カーペンターはナショナルリーグ優勝決定戦・第3戦の先発を5イニングで降板して以来、右肘の状態に不安を抱えていた[94]。この日も右肘への負担を考慮してかカーブをほとんど投じず、投球はほぼシンカーとカッターの2球種だけで組み立てていた[95]。そのカーペンターに対しレンジャーズは2回表、5番エイドリアン・ベルトレの二塁打などで一死一・二塁の好機を作ったが、7番マイク・ナポリが遊ゴロ併殺に打ち取られた。カーペンターは「この時期はもう内容より結果。勝ちは勝ち、負けは負け」と話した[94]。一方のカージナルス打線は3回裏、8番ニック・プントが中前打で出塁し無死一塁とするも、9番カーペンターは犠牲バント失敗で走者を送ることができず、後続も倒れた。両チームとも序盤3イニングでそれぞれ3人の走者を出しながら、なかなか先制点を挙げることができない。両打線の元気の無さについてカーペンターは、気温40°F台(7.2°C前後)に加えて風速が最大で18mph(約8m/s)という寒い気候が影響したのでは、と指摘している[96]。
4回裏のカージナルスの攻撃から試合が動く。先頭の3番アルバート・プホルスが死球で塁に出て、4番マット・ホリデイも二塁打で続き、無死二・三塁となる。C・ウィルソンはこの試合で初めて得点圏に走者を背負い、5番ランス・バークマンを打席に迎えた。2球目のカッターが甘く入ったのをバークマンが逃さずに叩きつけると、打球は跳ねて一塁手マイケル・ヤングの頭を越え、カージナルスに先制の2点をもたらした。C・ウィルソンはこの場面を「芝かなにかに当たったのか、あの打球は変な跳ね方したんだよな。本塁打を打たれたわけじゃない、打球の飛んだ位置が悪かっただけ」と振り返った[97]。続く6番フリースの中飛でバークマンは一塁からタッチアップして二塁へ進み、さらに追加点を狙ったが、ここはC・ウィルソンが後続を抑えて2点にとどめた。その直後の5回表、レンジャーズがすぐさま反撃する。右前打のベルトレを一塁に置いて7番ナポリが打席に立ち、高めへのシンカーに合わせてバットを強振すると、打球は右方向へ伸びていった。右翼手バークマンはすぐに諦めて見送り[98]、打球はそのままフェンスを越える同点の2点本塁打となった。リードを失ったカージナルスはその裏、先頭の1番ラファエル・ファーカルが8球粘って四球を選ぶ。ここで2番ジョン・ジェイは犠牲バントし、勝ち越しの走者を二塁へ進めた。しかしこの作戦は、むしろレンジャーズに好都合だった。一塁が空いたので、ポストシーズン11試合でOPS 1.211と好調のプホルスを敬遠できたうえ、今季MLB最多の31併殺打を打たせているC・ウィルソンにその機会をお膳立てできたためである[95]。果たして4番ホリデイは初球、内角へのカッターで三ゴロ併殺に仕留められた。
6回表、レンジャーズは先頭打者キンズラーがこの日2本目の安打を放ち、初回と同じ無死一塁に。この場面ではレンジャーズは、アンドラスに犠牲バントをさせた。初回のヒットエンドラン失敗でキンズラーが盗塁死となったことから、Y・モリーナの強肩を警戒し安全策を採ったとみられる[93]。バントは成功して一死二塁となり、打順が主軸にまわる。しかし3番ジョシュ・ハミルトンは2球目を打ち上げて中飛、4番ヤングは一塁手プホルスの好捕に阻まれて一ゴロと、逆転はならなかった。反対に無失点で切り抜けたカージナルスはその裏、一死から6番フリースの二塁打で走者が得点圏に達し、さらにC・ウィルソンの暴投と8番プントへの与四球で二死一・三塁とする。ここで投手のカーペンターに打順がまわり、カージナルスは代打にアレン・クレイグを起用した。これに対してレンジャーズも、C・ウィルソンに代えてアレクシー・オガンドをマウンドへ送った。両監督がともに「最高の駒」と表現する代打と救援投手の対決だったが、クレイグは「オガンドが速い球を投げるのは知っていたけど、いざ打席に立ってみたら97mph(約156.1km/h)の球が104mph(約167.4km/h)に見えて困った」という[94]。それでも1ボール2ストライクからの4球目、低めへの98mph(約157.7km/h)のフォーシームをクレイグは右翼線へ弾き返す。右翼手ネルソン・クルーズがスライディングキャッチを試みるも及ばず、三塁走者フリースを還す適時打となってカージナルスが1点を勝ち越した。クレイグは「打った瞬間に安打になると思った」といい[99]、クルーズは「スライディングしたときなにかに引っかかって、距離が稼げなかったから打球に届かなかった」と話した[97]。
カーペンターを下げたカージナルスは7回表から2番手フェルナンド・サラスを登板させ、いきなり一死一・二塁の危機を招く。左打者の8番デビッド・マーフィーの打順で、カージナルスは投手を左のマーク・ゼプチンスキーに代えた。これを受けてレンジャーズもマーフィーに代えて右のクレイグ・ジェントリーを代打に出すも、結果はゼプチンスキーが見逃し三振に抑えた。さらに9番オガンドの打順でも代打に右のエステバン・ヘルマンが送られたが、ここも3球で空振り三振に。ゼプチンスキーが好救援で1点のリードを守った。8回表は、右打者の1番キンズラーと2番アンドラスを右投手オクタビオ・ドーテルが、左打者の3番ハミルトンを左投手アーサー・ローズが、それぞれ打ち取って三者凡退で終える。このような細かな継投こそカージナルス監督トニー・ラルーサの真骨頂であり[47]、その一翼を担うドーテルは「今の俺たち(救援投手陣)に有名どころはいないけど、役割はきっちり果たしてるぜ」と胸を張った[100]。そして9回は抑えのジェイソン・モットが、4番ヤングを投ゴロに、5番ベルトレを三ゴロに仕留める。ベルトレはこの三ゴロについて自打球によるファウルを主張し、監督のロン・ワシントンとともに球審のジェリー・レインに抗議したが、受け入れられなかった。ただ、FOXの全米テレビ中継では赤外線カメラによるリプレイ映像が流され、ベルトレの左爪先に自打球による熱が発生していることを示していた[101]。この抗議による中断にもモットは動じず、最後は6番クルーズを左飛に退けて、三者凡退で試合終了。カージナルスが終盤3イニングに5投手をつぎ込む細かい継投を見せ、1点差で逃げ切って本拠地での初戦を3-2で制した。
この試合では、両チームの代打起用が明暗を分けた。レンジャーズの動きで疑問視されたのは、1点を追う7回表二死一・二塁の場面で、ヨービット・トレアルバではなくヘルマンを代打に送ったことである。トレアルバを右の代打として出せるようにするためマット・トレーナーをロースター入りさせていたにもかかわらず、ワシントンがこの場面で起用したのはトレアルバではなく、9月25日以降この日まで試合で一度も打席に立っていなかったヘルマンだった[102]。ヘルマンを使った理由についてワシントンは「彼はバットに当てるのが上手いから、ゼプチンスキーの緩い球にも対応できると思った」と説明したが、会見では質問の半数がこの場面に集中したため「トレアルバを出していればいい結果になっていたと断言できるのか?」と言い返す一幕もあった[103]。対照的にカージナルスは同点の6回裏二死一・三塁の場面で、クレイグを代打に指名して決勝点を奪っている。ラルーサは「寒い日の試合で途中までベンチにいて、しかも舞台がワールドシリーズで相手はオガンドというのはいい状況とは言えない。でも彼には打撃力が、特に得点圏での勝負強さがあるからね」とクレイグを称えた[104]。
第2戦 10月20日
[編集]映像外部リンク | |
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動画共有サイト "YouTube" にMLB公式アカウントが投稿したハイライト映像(英語、5分10秒) |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | R | H | E | |
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テキサス・レンジャーズ | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | 5 | 1 |
セントルイス・カージナルス | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 6 | 1 |
- 勝利:マイク・アダムス(1勝)
- セーブ:ネフタリ・フェリス(1S)
- 敗戦:ジェイソン・モット(1敗1S)
- 審判
[球審]グレッグ・ギブソン
[塁審]一塁: アルフォンソ・マルケス、二塁: ロン・カルパ、三塁: テッド・バレット
[外審]左翼: ゲイリー・シダーストロム、右翼: ジェリー・レイン - 試合開始時刻: 中部夏時間(UTC-5)午後7時6分 試合時間: 3時間4分 観客: 4万7288人 気温: 50°F(10°C)
詳細: MLB.com Gameday / ESPN.com / Baseball-Reference.com / FanGraphs
テキサス・レンジャーズ | セントルイス・カージナルス | ||||||||
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打順 | 守備 | 選手 | 打席 | 打順 | 守備 | 選手 | 打席 | ||
1 | 二 | I・キンズラー | 右 | 1 | 遊 | R・ファーカル | 両 | ||
2 | 遊 | E・アンドラス | 右 | 2 | 中 | J・ジェイ | 左 | ||
3 | 左 | J・ハミルトン | 左 | 3 | 一 | A・プホルス | 右 | ||
4 | 一 | M・ヤング | 右 | 4 | 右 | L・バークマン | 両 | ||
5 | 三 | A・ベルトレ | 右 | 5 | 左 | M・ホリデイ | 右 | ||
6 | 右 | N・クルーズ | 右 | 6 | 三 | D・フリース | 右 | ||
7 | 捕 | M・ナポリ | 右 | 7 | 捕 | Y・モリーナ | 右 | ||
8 | 中 | C・ジェントリー | 右 | 8 | 二 | N・プント | 両 | ||
9 | 投 | C・ルイス | 右 | 9 | 投 | J・ガルシア | 左 | ||
先発投手 | 投球 | 先発投手 | 投球 | ||||||
C・ルイス | 右 | J・ガルシア | 左 |
MLB機構はこの日、社会貢献活動に寄与した選手を表彰するロベルト・クレメンテ賞について、2011年の受賞者がボストン・レッドソックスのデビッド・オルティーズに決まったと発表した。オルティーズはアメリカ合衆国やドミニカ共和国で子供が医療を受けられるように、マサチューセッツ総合病院との共同事業として自らの名を冠した基金を設立し、心臓手術が必要なニューイングランド地方の子供たちのために1年間で150万ドル以上の寄付金を集めるなどの活動をしていた[105]。シリーズ第2戦を控えたブッシュ・スタジアムのフィールドでは表彰式が行われ、カージナルスのアルバート・プホルスが友人であるオルティーズの元へ駆け寄って祝福する場面もみられた[106]。第2戦の先発投手は、カージナルスはハイメ・ガルシア、レンジャーズはコルビー・ルイス。このポストシーズンでの成績は、ガルシアが3試合15.2イニングで0勝2敗・防御率5.74、ルイスが2試合11.2イニングで1勝1敗・防御率3.86である。今回のガルシアの先発によって、メキシコ出身投手によるワールドシリーズでの先発登板が、1981年のフェルナンド・バレンズエラ以来30年ぶりに実現する[107]。
リーグ優勝決定戦では両チームとも1試合平均で7点近く奪う強打が目立っていたが、ワールドシリーズでは初戦が3-2のロースコアとなったのに続き、この日もガルシアとルイスの投手戦で進んでいく[108]。序盤の3イニングは前日と同じく、両チームとも無得点で終わった。シリーズ開幕戦から2試合連続でこのような展開を辿ったのは、1961年以来50年ぶりのことである[109]。まずガルシアは、表のレンジャーズの攻撃を完璧に抑えた。初回には1番イアン・キンズラーから3番ジョシュ・ハミルトンまで3者連続で内野ゴロを打たせるなど、3イニングで対戦した9打者のうち5人を内野ゴロに仕留め、さらに残りも空振り三振と内野フライ・ライナーがふたりずつ。自身初のワールドシリーズ登板でレンジャーズ打線を手玉に取り、打球を外野へすら飛ばさせない[107]。一方でカージナルス打線と相対したルイスは、2回には一死から5番マット・ホリデイをストレートの四球で歩かせ、3回にも二死から1番ラファエル・ファーカルに二塁打を許したものの、いずれも後続を抑えてこちらも無失点で最初の3イニングを終えた。結果的にはこのファーカルの二塁打が、両チームを通じてこの試合で唯一の長打ということになる[108]。なお初回表にハミルトンが、2か月前から痛めていた左鼠蹊部の状態を悪化させている。彼は試合前、患部の状態を「何もないときが100%とすると、今は75%から80%くらい」で「もしレギュラーシーズン中なら故障者リスト入りを選ぶ」と明かしていた[110]。しかしこの日の第1打席では「これをやったときが一番痛くて、15分は痛みがひかない」というハーフスウィングをしてしまい、その後の三ゴロでは一塁へ全力疾走することができなかった[111]。
ガルシアは4回表、先頭打者キンズラーにフルカウントからの6球目を見極められ、四球で初めての走者を出す。次打者エルビス・アンドラスはバントの構えも見せてきながら最後は右飛、3番ハミルトンは左飛で二死としたが、4番マイケル・ヤングには初球を中前打されて一・三塁の危機を招いた。ここで5番エイドリアン・ベルトレを打席に迎えたガルシアは、3ボール1ストライクと不利なカウントから2球続けて低めへのスライダーを空振りさせ、三振を奪ってこの場面を切り抜けた。ここを無失点としたあとは、5回・6回とレンジャーズの攻撃を3人で終わらせていく。ガルシアは試合前、ナショナルリーグ優勝決定戦での2先発とも5回途中で降板したことを念頭に「先発投手なら誰であれ、6イニングもたずに降板したらチームをがっかりさせたような気分になるんじゃないか。なるべく長く投げられるようにがんばるよ」と意気込んでいた[112]。それが今回は6回まで相手打線を封じ、投球数も75球と、先発投手降板の目安とされる100球までまだ余裕がある。投げ合うルイスのほうに危機が訪れたのは5回裏のことだった。二死無走者から8番ニック・プントに右前打されると、9番ガルシアには2球目から4球連続ボールで四球を与え、一・二塁となる。1番ファーカルに今度は中前へ抜けようかという当たりを放たれるが、これを遊撃手アンドラスが好捕して二塁手キンズラーにグラブトスし、一塁走者ガルシアを二塁で封殺して失点を免れた。キンズラーは「あれはアンドラス以外の選手を含めても、今まで見てきたなかでは最高級のプレイだ。あの場面はグラブトスしかない」と賛辞を呈した[113]。ルイスはこれで窮地を乗り切ると、ヤングが「彼にしては珍しい」というガッツポーズを見せた[114]。
7回表、ガルシアは二死から5番ベルトレの中前打で3イニングぶりに出塁を許したものの、この回も12球で無失点に抑えた。その裏、カージナルスは一死から6番デビッド・フリースが中前打で出塁し、7番ヤディアー・モリーナの凡退を挟んで、8番プントのこの日2本目の安打で二死一・三塁の好機を作る。9番ガルシアの打順でカージナルスが代打にアレン・クレイグを送ると、レンジャーズもルイスを降板させてアレクシー・オガンドに継投した。こうして前日の第1戦に続き、またもカージナルスが先行するかどうかの重要な場面でクレイグとオガンドが対戦することになった。6回と7回という違いはあるが、同点という試合展開もアウトカウントも走者の置き方も相手投手も同じという状況に、クレイグは「信じられなかった。滅多にあることじゃないし、切り替えて集中し直さないといけなかった」という[113]。両者の2度目の対戦は、2球目の96mph(約154.5km/h)のフォーシームをクレイグが前日同様に右前打とし、三塁走者フリースが生還してカージナルスが1点を先制した。2試合連続で救援失敗のオガンドは「(捕手のマイク)ナポリが高めを要求したのに球が低めに行ってしまい、クレイグがそれを打った。あれは自分のミス」と悔やんだ[115]。リードを得たカージナルスは、8回表をフェルナンド・サラスとマーク・ゼプチンスキーの継投で三者凡退に抑えた。その裏、レンジャーズは3番手のマイク・アダムスが登板。一死から3番プホルスには右中間フェンス手前まで届く大きな右飛を打たれ[116]、さらに続くバークマンの右前打とホリデイの四球で二死一・二塁と走者を溜めたものの、6番ダニエル・デスカルソを二ゴロに打ち取って凌ぎ、点差を1点に保っている。
9回表、カージナルスは前日と同じく抑えのジェイソン・モットへつなぐ。レンジャーズの先頭打者キンズラーは、5球目のカッターを打ち上げた。打球は遊撃手ファーカルが背走して追うも、届かずに落ちて内野安打になった。そして2番アンドラスの打席の3球目に、キンズラーが盗塁を試みる。レンジャーズが盗塁を仕掛けたのは第1戦の初回表にヒットエンドランを失敗したとき以来で、今回はベンチからの指示ではなくキンズラーが独断で行ったものだった[117]。結果は捕手Y・モリーナの送球よりわずかに早くキンズラーの左手が二塁に達して盗塁成功となり、同点の走者が得点圏へ進んだ。アンドラスは7球目のカッターを中前へ運ぶ。キンズラーは三塁で止まるが、中堅手ジョン・ジェイから内野への返球を一塁手のプホルスが捕り損ね、その隙を突いた打者走者アンドラスが二塁を奪った。記録はアンドラスの単打とプホルスの失策で、無死二・三塁という状況に。ここでカージナルスはモットの交代を決断し、左打者の3番ハミルトンには左のアーサー・ローズを、右打者の4番ヤングには右のランス・リンを当てた。しかしレンジャーズ打線の中軸は、ハミルトンが初球の外角高めスライダーを右翼へ、ヤングがフルカウントからの外角低めカーブを中堅へ、それぞれ打ち上げて連続犠牲フライでキンズラーとアンドラスを還し、土壇場で試合をひっくり返した。9回裏、レンジャーズは抑えのネフタリ・フェリスを登板させる。モットがいずれも変化球で2安打されたのとは対照的に、フェリスはこのイニングの全19球を平均98mph(約157.7km/h)のフォーシームだけで押し切って無失点で締め[118]、レンジャーズが逆転勝利で対戦成績を1勝1敗のタイに戻した。
アンドラスは試合後、9回表にプホルスの失策の間に二塁を陥れた場面について「もしプホルスが送球をちゃんと捕っていたら、こっちも一塁で止まってたと思う」と振り返った[119]。決勝の犠牲フライでアンドラスを本塁へ迎え入れたヤングは「エルビスも一度は動きを止めてたんだよ。相手のミスに素早く反応した彼を褒めるべき」と述べた[120]。決勝点に結びつくミスを犯したプホルスは、この日は取材陣に何も話すことなくブッシュ・スタジアムを後にした[121]。取材拒否ともとれる姿勢にメディアの批判が集まり、翌日になって彼はこのプレイについて「本塁へ走りかけて止まったキンズラーを三塁でアウトにしようとして、送球から目を離してしまった」と説明している[122]。またカージナルスでは、プホルスの失策直後に監督のトニー・ラルーサが行った継投も、モットよりも奪三振率の低い投手を出したあげくに犠牲フライを許すという、采配ミスといえるものだった[123]。この投手起用についてラルーサは、もしアンドラスが一塁で止まっていたならモットの続投を選択したとし「ただ打者をアウトにするだけでなく、二塁走者の進塁も阻止するなら、左投手のほうが可能性は高いと思った」と話した[110]。こうしてシリーズは、第1戦はレンジャーズの代打起用に、第2戦はカージナルスの投手起用に、それぞれ疑問が残る形でブッシュ・スタジアムでの最初の2試合を終えた。
第3戦 10月22日
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動画共有サイト "YouTube" にMLB公式アカウントが投稿したハイライト映像(英語、5分12秒) |
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セントルイス・カージナルス | 1 | 0 | 0 | 4 | 3 | 4 | 2 | 1 | 1 | 16 | 15 | 0 |
テキサス・レンジャーズ | 0 | 0 | 0 | 3 | 3 | 0 | 1 | 0 | 0 | 7 | 13 | 3 |
- 勝利:ランス・リン(1勝)
- 敗戦:マット・ハリソン(1敗)
- 本塁打
STL:アレン・クレイグ1号ソロ、アルバート・プホルス1号3ラン・2号2ラン・3号ソロ
TEX:マイケル・ヤング1号ソロ、ネルソン・クルーズ1号2ラン - 審判
[球審]アルフォンソ・マルケス
[塁審]一塁: ロン・カルパ、二塁: テッド・バレット、三塁: ゲイリー・シダーストロム
[外審]左翼: ジェリー・レイン、右翼: グレッグ・ギブソン - 試合開始時刻: 中部夏時間(UTC-5)午後7時6分 試合時間: 4時間4分 観客: 5万1462人 気温: 80°F(26.7°C)
詳細: MLB.com Gameday / ESPN.com / Baseball-Reference.com / FanGraphs
セントルイス・カージナルス | テキサス・レンジャーズ | ||||||||
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打順 | 守備 | 選手 | 打席 | 打順 | 守備 | 選手 | 打席 | ||
1 | 遊 | R・ファーカル | 両 | 1 | 二 | I・キンズラー | 右 | ||
2 | 右 | A・クレイグ | 右 | 2 | 遊 | E・アンドラス | 右 | ||
3 | 一 | A・プホルス | 右 | 3 | 中 | J・ハミルトン | 左 | ||
4 | 左 | M・ホリデイ | 右 | 4 | DH | M・ヤング | 右 | ||
5 | DH | L・バークマン | 両 | 5 | 三 | A・ベルトレ | 右 | ||
6 | 三 | D・フリース | 右 | 6 | 右 | N・クルーズ | 右 | ||
7 | 捕 | Y・モリーナ | 右 | 7 | 一 | M・ナポリ | 右 | ||
8 | 中 | J・ジェイ | 左 | 8 | 左 | D・マーフィー | 左 | ||
9 | 二 | R・テリオ | 右 | 9 | 捕 | Y・トレアルバ | 右 | ||
先発投手 | 投球 | 先発投手 | 投球 | ||||||
K・ローシュ | 右 | M・ハリソン | 左 |
ワールドシリーズで最初の2試合が1勝1敗だったのは過去に54度あり、そのうち第3戦勝利チームがそのまま優勝したのは36度、直近11度に限れば10度にのぼる[124]。今シリーズはその第3戦を前に移動日を挟み、舞台をブッシュ・スタジアムからレンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントンへ移した。ブッシュ・スタジアムでの最初の2試合では、両チーム合わせて打率が.195と2割にも満たず本塁打も1本だけ[125]、その結果として計8得点というのはシリーズ史上10番目に少なかった[126]。また、両チームの主砲、レンジャーズのジョシュ・ハミルトンとカージナルスのアルバート・プホルスはともに2試合とも無安打に終わっている。しかし、第3戦以降の3試合は展開が変わると予想される。というのも、寒いミズーリ州セントルイスから暖かいテキサス州アーリントンへの移動や、アメリカンリーグ球団の本拠地での開催による指名打者制の適用など、環境の変化がいずれも打線の得点力向上につながりやすい性質のためである[127]。21日の移動後に両チームはレンジャーズ・ボールパークで練習を実施したが、そのときの気温は80°F台前半(28.1°C前後)と、気候の違いは明らかだった[125]。その21日、ハミルトンは鼠蹊部の回復に努めるため練習を休み[128]、プホルスは打撃練習で好感触を得ていた[129]。第3戦の先発投手は、レンジャーズはマット・ハリソン、カージナルスはカイル・ローシュ。このポストシーズンでの成績は、ハリソンが3試合10.2イニングで1勝0敗・防御率4.22、ローシュが2試合9.2イニングで0勝2敗・防御率7.45である。
指名打者制の適用により、両チームの布陣に変化があった。レンジャーズは3戦目で初めてヨービット・トレアルバを先発捕手に起用し、マイク・ナポリを捕手から一塁に、マイケル・ヤングを一塁から指名打者に移した。監督のロン・ワシントンはトレアルバの起用理由について「そろそろ彼も守備に就かせとかなくちゃ」と述べているが、ハリソンのレギュラーシーズン捕手防御率をみると、ナポリが103.2イニングで2.60なのに対してトレアルバは82.0イニングで4.39と差がある[102]。一方のカージナルスは、第2戦まで右翼を守っていたランス・バークマンを指名打者にまわし、2試合連続代打適時打のアレン・クレイグをこの日は2番・右翼として先発出場させた。ナショナルリーグの球団は指名打者制の存在を前提としたロースター編成をしないため、ワールドシリーズでアメリカンリーグ球団の本拠地へ移動すると打線の組み方に苦慮する傾向がある。しかしカージナルス打線はクレイグの起用によって厚みを増し、相手のC.J.ウィルソンに「うちのリーグに入っても上位レベル」と言わしめた[130]。初回表、そのクレイグが第1打席で2球目のツーシームを捉えてソロ本塁打とし、カージナルスに3試合連続となる先制点をさっそくもたらす。この一打によってクレイグは、3打席連続で同点か勝ち越しの安打を放つというシリーズ史上初の記録を成し遂げた[131]。また、シリーズ初打席から3打席連続で打点を挙げるというのも、ダスティ・ローズ(1954年)とテッド・クルズースキー(1959年)に次ぐ史上3人目の記録である[132]。レンジャーズは初回から1点を追いかけることになり、2回裏には安打と四球で一死一・二塁と得点圏に走者を進めるが、後続がローシュに打ち取られて得点を奪えなかった。
カージナルスは4回表、先頭の3番プホルスが左前打で出塁する。プホルスにとってはこれが今シリーズ初安打だった[133]。しかし4番マット・ホリデイはツーシームを打ち損じての遊ゴロで、レンジャーズ内野陣はまず一塁走者プホルスを二塁で封殺し、さらに併殺を狙って二塁手イアン・キンズラーから一塁のナポリへ送球した。ところがこの送球がわずかに乱れ、ナポリは塁から離れて捕球しつつ打者走者ホリデイの左肩にタッチしたが、一塁塁審のロン・カルパはセーフの判定を下した。レンジャーズのダグアウトからはワシントンが出てきて抗議するが、カルパは「この種のプレイでは自分はいつもそうしているし、ワシントンも要求してこなかったから」と、他の審判を呼び寄せての確認協議も行わなかった[134]。ただ、リプレイ映像ではホリデイの一塁到達よりナポリのタッチのほうが早かったのは明白であり、試合後にはカルパ自身も誤審を認めることになる[135]。判定は覆らず、試合は二死無走者ではなく一死一塁で再開される。ここでカージナルス打線は、5番バークマンの右前打と6番デビッド・フリースの二塁打でホリデイを還し、まず1点を挙げる。さらに一死満塁から、8番ジョン・ジェイの一ゴロがナポリの本塁への悪送球を誘い2点を追加。9番ライアン・テリオも左前適時打で続き、この回だけで一挙4点を入れてリードを5点に広げた。ハリソンは1番ラファエル・ファーカルを打ち取って二死一・二塁となったところで降板し、代わったスコット・フェルドマンが2番クレイグを抑えて打者9人の攻撃を終わらせた。ハリソンの口からは、カルパの誤審がなければ「カージナルスはこのイニングに4点もとれていたかどうか」と恨み節がこぼれた[136]。
その裏のレンジャーズは先頭の4番ヤングが2球目を本塁打、5番エイドリアン・ベルトレが初球を左前打したあと6番ネルソン・クルーズも3球目を本塁打と、わずか6球で3点を返して2点差に詰め寄る。7番ナポリにも中前打が出て4連打となったところで、カージナルスはローシュからフェルナンド・サラスに継投した。レンジャーズはサラスを攻めたてて一死一・三塁とし、1番キンズラーの左飛で三塁走者ナポリがタッチアップしたが、左翼手ホリデイからの返球でナポリは本塁タッチアウトとなり4点目を阻まれた。ナポリは「飛距離は十分だったけど、俺の足が遅かったしホリデイの送球も完璧だった」と述べ[137]、ホリデイは捕手のヤディアー・モリーナを「捕球もタッチも上手くやってくれた」と称賛した[138]。4回終了時点で、両チームの得点は計8点と早くも前2試合の合計に並び[133]、先発投手は既にマウンドを降ろされた。続く5回も点の取り合いとなる。表のカージナルスの攻撃は、先頭打者プホルスの中前打を皮切りに無死満塁の好機を作り、6番フリースの三ゴロと7番Y・モリーナの2点二塁打で3点を得て、8-3と点差を開く。レンジャーズはその裏、2番エルビス・アンドラスが初球を左前打とすると、3番ハミルトンも初球にバットを合わせてゴロで一二塁間を破り、無死一・三塁とした。ハミルトンの右前打は今シリーズ10打数目での初安打である[139]。これに4番ヤングと5番ベルトレも続いて、2イニング連続となる先頭打者からの4連打で2点を返したあと、7番ナポリの犠牲フライでもう1点を追加し、点差を2点に戻した。しかし、なおも二死満塁と一打逆転もありうる状況としながら、3番手として登板していたランス・リンの前に1番キンズラーが遊飛に倒れた。
6回表からレンジャーズのマウンドには、3番手としてアレクシー・オガンドが上がった。カージナルスは先頭の9番テリオがフルカウントから四球を選び、1番ファーカルが右前打で続いて無死一・二塁とする。ここで2番クレイグとオガンドの3試合連続となる対決があり、ファウルチップでの三振によってオガンドが初めてクレイグをアウトにした。だが次打者プホルスが3球目、高めに浮いた96mph(約154.5km/h)のフォーシームに合わせてバットを振り抜くと、打球は左翼2階席の手摺壁を直撃する3点本塁打となった。もし手摺壁を越えて2階席に着弾していれば球場18年目で16本目の特大本塁打となるところ、そこまではわずかに届かなかったものの、相手ファンはこの一打を目の当たりにして静まり返った[140]。ワシントンはオガンドの制球ミスを指摘しつつも、プホルスの打撃については「あの速さの球をあんなに飛ばすなんていう芸当ができるのは、彼かミゲル・カブレラくらいのもんじゃないか」と舌を巻いた[141]。オガンドはまたも相手打線に得点を許すと、後続も遊ゴロ失策→右前打→四球と止められず、一死満塁としたところでマイク・ゴンザレスにマウンドを譲った。オガンドは前2戦いずれもクレイグを抑えられなかったのに、この試合では7打者と対戦してアウトにできたのがクレイグだけ、他6人には全て出塁される結果に終わった[139]。カージナルスは、7番Y・モリーナの犠牲フライで1点を加え、12-6と点差を6点に拡大した。その裏、レンジャーズ打線は2番アンドラスから始まる好打順だったが、リンはイニングまたぎをものともせずに3人で抑えた。両チームを通じて、得点が入らなかったのは3回裏以来、打者3人で攻撃が終わったのは3回表以来のことであった。
両チームが点を取っては取られ、取られては取り返すという試合の流れは、終盤に進むにつれて次第に一方的なものへとなっていく。その中心にいたのはプホルスだった。7回表、二死から2番クレイグが四球で一塁に歩いて第5打席がまわってくると、M・ゴンザレスが投じた初球のフォーシームを左中間スタンドへ運ぶ2点本塁打に。そして9回表の第6打席でもダレン・オリバーに2ストライクと追い込まれながら、6球目のツーシームを打ち返して左翼スタンドへのソロ本塁打とし、3打席連続本塁打を達成した。プホルスがベース一周を終えてダグアウトへ戻ってくると、チームメイトたちはいったん彼を無視し、しばらくしてから一斉にもみくちゃにする "サイレント・トリートメント" で彼を祝福した[142]。ワールドシリーズでの1試合3本塁打はベーブ・ルース(1926年・1928年)とレジー・ジャクソン(1977年)の殿堂入り2選手に次いで史上3人目・4度目、同じく1試合5安打はポール・モリター(1982年)に次いで史上2人目、1試合6打点もボビー・リチャードソン(1960年)と松井秀喜(2009年)に次いで史上3人目、1試合14塁打はシリーズ新記録と、この日のプホルスは歴史に名を残す強打を見せた[139]。片やレンジャーズ打線は6回以降は相手投手陣を打ち崩せず、7回裏に1点を返したのみ。その7回裏には、飛球を捕ろうとしたホリデイに向けてレンジャーズのファンがおもちゃのボールを投げつけるという事件も発生している。ホリデイの捕球に影響はなかったものの、投げつけたファンは球場から追い出された[143]。その後、8回裏はオクタビオ・ドーテルが無失点、9回裏はミッチェル・ボッグスが三者凡退で締めて試合が終了し、カージナルスが16-7の大勝で対戦成績を2勝1敗とした。
この日のプホルスについて、監督のトニー・ラルーサは「試合の中盤、うちの誰かがアルバートに『相手連中が二度と忘れられない日にしてやれ』って掛け声をかけてたな。プホルスはその通りのことをやってみせた」と話した[142]。プホルスは当初、カージナルスのリードが8回終了時点で8点あったので、自身は第6打席に立たずに試合から退いて控え選手に出番を与えようと思っていたが、相手の強力打線のことを考えてそれをやめにしたという[144]。その結果がシリーズ史上4度目の1試合3本塁打となったのだが、打った本人は「野球は個人戦じゃなくてチームで行うものだから、チームが勝つためにできることを毎日やろうとしている。引退するときに『すごかったなぁ』と振り返れたらいいけど、今は試合に勝ったことが嬉しい」とチームが勝利したことを強調した[145]。34年前に2人目の達成者となっていたR・ジャクソンは「3人目が彼になったとは喜ばしいね。光栄だよ、彼は球界の顔だから」と述べ[144]、翌朝には自らプホルスに電話をかけて祝福した[146]。
第4戦 10月23日
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動画共有サイト "YouTube" にMLB公式アカウントが投稿したハイライト映像(英語、5分10秒) |
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セントルイス・カージナルス | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 |
テキサス・レンジャーズ | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | X | 4 | 6 | 0 |
- 勝利:デレク・ホランド(1勝)
- 敗戦:エドウィン・ジャクソン(1敗)
- 本塁打
TEX:マイク・ナポリ2号3ラン - 審判
[球審]ロン・カルパ
[塁審]一塁: テッド・バレット、二塁: ゲイリー・シダーストロム、三塁: ジェリー・レイン
[外審]左翼: グレッグ・ギブソン、右翼: アルフォンソ・マルケス - 試合開始時刻: 中部夏時間(UTC-5)午後7時7分 試合時間: 3時間7分 観客: 5万1539人 気温: 68°F(20°C)
詳細: MLB.com Gameday / ESPN.com / Baseball-Reference.com / FanGraphs
セントルイス・カージナルス | テキサス・レンジャーズ | ||||||||
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打順 | 守備 | 選手 | 打席 | 打順 | 守備 | 選手 | 打席 | ||
1 | 遊 | R・ファーカル | 両 | 1 | 二 | I・キンズラー | 右 | ||
2 | 右 | A・クレイグ | 右 | 2 | 遊 | E・アンドラス | 右 | ||
3 | 一 | A・プホルス | 右 | 3 | 中 | J・ハミルトン | 左 | ||
4 | 左 | M・ホリデイ | 右 | 4 | DH | M・ヤング | 右 | ||
5 | DH | L・バークマン | 両 | 5 | 三 | A・ベルトレ | 右 | ||
6 | 三 | D・フリース | 右 | 6 | 右 | N・クルーズ | 右 | ||
7 | 捕 | Y・モリーナ | 右 | 7 | 左 | D・マーフィー | 左 | ||
8 | 中 | J・ジェイ | 左 | 8 | 捕 | M・ナポリ | 右 | ||
9 | 二 | N・プント | 右 | 9 | 一 | M・モアランド | 左 | ||
先発投手 | 投球 | 先発投手 | 投球 | ||||||
E・ジャクソン | 右 | D・ホランド | 左 |
レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントンの隣には公園や駐車場を挟んで、アメリカンフットボールのNFLでダラス・カウボーイズが本拠地にしているカウボーイズ・スタジアムが建つ。一帯ではこの日、レンジャーズ・ボールパークで午後7時過ぎからシリーズ第4戦が始まるのに先立ち、午後3時過ぎからはカウボーイズ・スタジアムでカウボーイズとセントルイス・ラムズの試合があった。つまり、テキサス州アーリントンのチームとミズーリ州セントルイスのチームの対戦が2競技にまたがり連続して開催されることになる。NFLの日程は4月19日に発表されており[147]、シリーズと重なったのは偶然だった。これを記念してカウボーイズ・スタジアムでのNFLの試合前には、レンジャーズのジョシュ・ハミルトンとカージナルスのランス・バークマンが野球ユニフォーム姿でフィールドに現れ、それぞれカウボーイズとラムズの名誉主将として先攻チームを決めるためのコイントスを見守るという演出がなされた[148]。試合は野球が始まる1時間ほど前に終わり、カウボーイズがラムズを34-7で下した[149]。これに続いて行われるシリーズ第4戦の先発投手は、レンジャーズはデレク・ホランド、カージナルスはエドウィン・ジャクソン。このポストシーズンでの成績は、ホランドが4試合13.2イニングで1勝0敗1ホールド・防御率5.27、E・ジャクソンが3試合12.1イニングで1勝0敗・防御率5.84である。
試合前の一塁側ダグアウトでは、レンジャーズ監督のロン・ワシントンがホランドと向き合い、両手をホランドの両肩に置きながら話しかけ、最後に頬を軽く平手打ちして気合を入れた。このときの話の内容について、ワシントンは「『お前ならゲームを作れる』みたいな普通の言葉」というが[150]、配球面でも相手の内角を突くよう指示していた[151]。ホランドには前年のシリーズ第2戦で救援登板した際、ストライクが13球中わずか1球しか入らずに3者連続で四球を与え、ひとつのアウトもとれずに降板した苦い経験がある。このことについて「今じゃ自分でも笑い話にするけど、雪辱はしたいと思ってた」という[152]。それから1年が経った今回、ホランドは先発投手としてシリーズに戻ってくると、前日に大量16点を挙げたカージナルス打線を相手に好投を見せる。まず初回、先頭打者ラファエル・ファーカルに抜けていれば長打という三塁線への鋭い当たりを許すも、三塁手エイドリアン・ベルトレが打球をライナーで捕ってアウトに[153]。続く2打者はいずれも前日の試合で本塁打を放っているが、2番アレン・クレイグは空振り三振に、そして3番アルバート・プホルスは遊ゴロに抑えた。シリーズ史上初の4打席連続本塁打がかかっていたプホルスに対して、ホランドは86mph(約138.4km/h)のチェンジアップで打球を上げさせず、新記録と先制点を阻止した。マイク・ナポリはポジションを前日の一塁手から捕手に戻し、この回はホランドの球を受けていて彼の好調ぶりを感じ取ったという[154]。その裏、レンジャーズは一死から2番エルビス・アンドラスが左前打で出塁し、3番ハミルトンが右翼線への二塁打でアンドラスを還して、シリーズ4戦目で初めて先制点を挙げた。ハミルトンの長打はリーグ優勝決定戦第5戦以来5試合ぶりだった[155]。
前日までの3試合でレンジャーズが守備に就いた計27イニングのうち、レンジャーズがリードした状態で始まったのは第2戦9回裏のわずか1イニングしかなく、他の26イニングは全て同点またはビハインドでのものだった[130]。11イニングぶりにリードして迎えた2回表、ホランドは一死から5番バークマンに右中間を破る二塁打を浴び、同点の走者を得点圏に背負う。しかしここは6番デビッド・フリースを内角への94mph(約151.3km/h)のシンカーで見逃し三振に、7番ヤディアー・モリーナを同じく94mphのシンカーで二ゴロに打ち取ってリードを守った。ここを切り抜けたあと、3回と4回は三者凡退で片付ける。5回は先頭打者バークマンの中前打を次打者フリースの二ゴロ併殺で帳消しにし、Y・モリーナも中飛と、この回も打者3人で終え相手に好機すら与えない。この日のホランドは直近数度の登板時より変化球の割合を増やし、内角を突く投球で相手打線を翻弄した[151]。そのカージナルス打線は前日の大勝を引きずってか大振りが目立ち、外角球を逆らわずに反対方向へ流し打つような打撃が影を潜めた[156]。だがその結果、この試合でホランドが外野へ飛ばされた打球は、バークマンの2安打を除いてはこのY・モリーナの中飛が唯一となった[155]。ホランドとは対照的に、カージナルス先発のE・ジャクソンは5イニングを投げるのに94球を費やし、5つの四球を出すなど制球に苦しむ。投手コーチのデーブ・ダンカンはこの制球難について、球審のロン・カルパが際どいコースの球をホランドの投球時より厳しく判定していた、と指摘する[157]。それでも、2回裏には一塁走者イアン・キンズラーが飛び出したのを捕手Y・モリーナが投球後の牽制でアウトにするなど、E・ジャクソンは味方守備にも助けられながら後続を断って1失点のまま踏ん張った。
6回表、ホランドは一死から9番ニック・プントに外角へのシンカーを見極められ、初の与四球で歩かせる。ただこの日は四球をきっかけに崩れることもなく、1番ファーカルを一邪飛に、2番クレイグを空振り三振に仕留めた。その裏、E・ジャクソンもまた先頭打者をアウトにしたあと、6番ネルソン・クルーズに四球を与えて一死一塁とする。そしてホランドとは逆に、7番デビッド・マーフィーにもフルカウントまで粘られた末に四球を選ばれ、走者を溜めた。1試合7与四球というのは、1997年のリバン・ヘルナンデス以来である[155]。8番ナポリを打席に迎えたところで、カージナルスは球数が109球に達したE・ジャクソンを降板させ、2番手としてミッチェル・ボッグスをマウンドへ送った。チームの筋書きは、彼のパワーシンカーで打球を詰まらせて併殺をとるというものだった[158]。ボッグス自身も「俺のシンカーなら誰が相手でもゴロを打たせられる」と自信を持っていた[154]。一方のナポリは相手の併殺狙いを読みつつ、初球はカウントを先行させるために速球で来るかも、と考えていた[159]。その初球、ボッグスが投じた95mph(約152.9km/h)の球は沈まず[160]、内角高めへの速球となる。今季のナポリはこのコースへの速球を打率.400と得意としており[156]、この球も逃さずにフルスウィングで引っ張った。打球は左翼手マット・ホリデイの頭上を大きく越えてスタンドに届く3点本塁打となり、レンジャーズが4-0とリードを一気に広げた。球場は「ナ・ポ・リ! ナ・ポ・リ!」の大歓声に包まれ、ナポリはダグアウトからカーテンコールに応えた[161]。このあとボッグスはシンカーで9番ミッチ・モアランドに投ゴロを打たせ、1番キンズラーは空振り三振させており、制球を乱したナポリへの1球が散々な結果を招いた。
ホランドは打線の援護を受けた直後の7回、そして8回とカージナルス打線を完璧に封じる。7回表の先頭打者プホルスは投ゴロで、この日は3打席ともホランドの投球を外野へ飛ばすことすらできずじまい[161]。ホランドはプホルスとの対戦について「間違いなく球界最高の選手のひとりだし、自分なりのA評価の投球を見てもらいたかった」と話した[150]。次打者バークマンはここまで2安打を放っているが、第3打席は内角高めへのスライダーに手が出ず見逃し三振だった。この日ホランドが奪った計7三振は、見逃しでも空振りでも最後の球は全て内角に決まっていた[155]。8回裏終了後、ファンは2番手投手がブルペンから9回表のマウンドへ向かうのかどうか注目し、ダグアウトからホランドが出てきて続投するのがわかると拍手で出迎えた[161]。ホランドは先頭の9番プントを凡退させ、完封勝利まであとアウトふたつに迫る。だが1番ファーカルにはストライクゾーン付近の球をファウルにされ、1ボール2ストライクと追い込みながら結局四球を出した。ここでワシントンがマウンドへ向かい、抑えのネフタリ・フェリスへ交代すると告げた。ホランドは「次で併殺だ、いける」と最後まで投げさせてくれるよう志願したが、ワシントンの「だったらここで跪いてみせろ」という返事に笑ってしまい、降板を受け入れた[162]。ファンはダグアウトから出てきたワシントンへブーイングを浴びせ、ダグアウトへ引き揚げるホランドを一転してスタンディングオベーションで称えた[161]。後を託されたフェリスは、2番クレイグを四球で歩かせて一死一・二塁としたものの、3番プホルスと4番ホリデイを打ち取って試合を締め、レンジャーズが4-0の勝利でシリーズ2勝目を挙げた。
この日のホランドの好投には試合後、敵味方を問わず賞賛の声が寄せられた。二塁手として後ろから投球を見ていたキンズラーは「たぶん球団史上最高の投球だったんじゃないか」と話し、ノーラン・ライアンがレンジャーズ在籍時に達成した2度のノーヒットノーランについて指摘されると「ああ、でもそれはワールドシリーズじゃないだろ?」と答えた[163]。カージナルス打線でただひとり安打を記録したバークマンは「左で95mph投げられる先発がどれだけいる? ほんの数人しかいないうえに化物揃いだ。そんな投手にストライクゾーンのあたりでボールを動かされたら打つのはかなり難しい」と脱帽していた[164]。当のホランドは「この球場でこんなに大きな歓声は聞いたことがなかった。腕の毛が逆立ってぞくぞくしたよ、そんなに生えてないけど」と述べている[165]。
第5戦 10月24日
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セントルイス・カージナルス | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 7 | 1 |
テキサス・レンジャーズ | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 2 | X | 4 | 9 | 2 |
- 勝利:ダレン・オリバー(1勝)
- セーブ:ネフタリ・フェリス(2S)
- 敗戦:オクタビオ・ドーテル(1敗)
- 本塁打
TEX:ミッチ・モアランド1号ソロ、エイドリアン・ベルトレ1号ソロ - 審判
[球審]テッド・バレット
[塁審]一塁: ゲイリー・シダーストロム、二塁: ジェリー・レイン、三塁: グレッグ・ギブソン
[外審]左翼: アルフォンソ・マルケス、右翼: ロン・カルパ - 試合開始時刻: 中部夏時間(UTC-5)午後7時9分 試合時間: 3時間31分 観客: 5万1459人 気温: 72°F(22.2°C)
詳細: MLB.com Gameday / ESPN.com / Baseball-Reference.com / FanGraphs
セントルイス・カージナルス | テキサス・レンジャーズ | ||||||||
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打順 | 守備 | 選手 | 打席 | 打順 | 守備 | 選手 | 打席 | ||
1 | 遊 | R・ファーカル | 両 | 1 | 二 | I・キンズラー | 右 | ||
2 | 右 | A・クレイグ | 右 | 2 | 遊 | E・アンドラス | 右 | ||
3 | 一 | A・プホルス | 右 | 3 | 中 | J・ハミルトン | 左 | ||
4 | 左 | M・ホリデイ | 右 | 4 | DH | M・ヤング | 右 | ||
5 | DH | L・バークマン | 両 | 5 | 三 | A・ベルトレ | 右 | ||
6 | 三 | D・フリース | 右 | 6 | 右 | N・クルーズ | 右 | ||
7 | 捕 | Y・モリーナ | 右 | 7 | 左 | D・マーフィー | 左 | ||
8 | 中 | S・シューマッカー | 左 | 8 | 捕 | M・ナポリ | 右 | ||
9 | 二 | N・プント | 右 | 9 | 一 | M・モアランド | 左 | ||
先発投手 | 投球 | 先発投手 | 投球 | ||||||
C・カーペンター | 右 | C・ウィルソン | 左 |
シリーズはここまでの4試合をカージナルスとレンジャーズが交互に勝つという展開を経て、レンジャーズ・ボールパーク・イン・アーリントンでは今シリーズ、そして2011年シーズン最後の試合となる第5戦に入った。4人で回す先発ローテーションも一巡し、この日の先発投手はレンジャーズがC.J.ウィルソン、カージナルスがクリス・カーペンターと、初戦と同じ顔合わせになった。C・ウィルソンは今シリーズ終了後にFAとなるため、この試合がレンジャーズの一員として本拠地球場で投げる最後の試合になる可能性があるが、前日に「それは考えたこともなかったな」と話していた[150]。レギュラーシーズンで3.0だった与四球率がポストシーズンでは5.9に跳ね上がり、シリーズ第1戦でも5.2イニングで6四球(2敬遠を含む)を与えていることについて、監督のロン・ワシントンは「次はいつものC.J.が観られると思っている」と期待を寄せた[166]。その第1戦で勝利投手になったカーペンターは、攻撃時に代打を出されたためわずか87球で降板しており、数日後に行った投球練習では肩にも肘にも痛みが全くなくいい調子だったという[167]。
初回表、C・ウィルソンはカージナルス打線を8球で三者凡退に片付ける。ただ、3番アルバート・プホルスに対しては3ボール0ストライクとしており、この日も制球難が解消されていないことを窺わせた[168]。その裏レンジャーズも得点を挙げることができず、試合が動き始めたのは2回表のカージナルスの攻撃から。C・ウィルソンは、先頭の4番マット・ホリデイを四球で歩かせたあと暴投で二塁へ進まれ、続くランス・バークマンにも0ボール2ストライクからの四球で無死一・二塁とされる。一死後、7番ヤディアー・モリーナが三遊間を破る安打を放ち、二塁走者ホリデイが生還してカージナルスがまず先制の1点を挙げた。左翼手デビッド・マーフィーがこの打球を処理する際に、グラブへ収められずに落とす失策を犯し、その隙に一塁走者バークマンは二塁を回って三塁まで進んだ。そして8番スキップ・シューマッカーのゴロを一塁手ミッチ・モアランドがいったん捕球し損ね、併殺とはならず打者走者だけがアウトになる間にバークマンもホームを踏んで、もう1点が加わる。相手のミスを逃さなかったカージナルスはこの回、2点を先行することに成功した。しかしなおも二死二塁の場面では、9番ニック・プントの打球をマーフィーがダイビングキャッチで左飛とした。マーフィーはこのイニングについて「自分がミスした分を自分で取り返せたのは良かったが、嬉しくはなかった。うちのチームには完璧主義的なところがあるから、そもそもミスをしたくない」と話した[169]。C・ウィルソンはこの回を終えると、そのあとは走者を出しながらも要所を締める投球でこれ以上の失点を許さない。3回表の一死三塁という場面では、3番プホルスを敬遠して4番ホリデイとの勝負を選択し、三ゴロ併殺に打ち取った。
レンジャーズは3回裏、9番モアランドがソロ本塁打を放ち1点差に詰め寄る。モアランドは今ポストシーズンで打率.087と不振に陥っていたが、打撃コーチのスコット・クールボーにスウィングの改善を認められ、前日の第4戦から先発出場していた[170]。カージナルスは5回表、無死一・二塁の好機を迎え、1番ラファエル・ファーカルの犠牲バントで一死二・三塁とする。だが2番アレン・クレイグは空振り三振に倒れた。クレイグは「最善は尽くしたが、走者を還せなかったのは自分の責任」と述べた[171]。二死となり一塁が空いているため、レンジャーズはプホルスを再び敬遠し満塁策を採る。ファンが「レッツゴーC.J.」のチャントを送るなか、C・ウィルソンは4番ホリデイを遊ゴロに打ち取って3点目を阻止した[170]。カージナルスは6回表も一死一塁の場面を作り、C・ウィルソンを降板に追い込んだ。この日のC・ウィルソンは5与四球(2敬遠を含む)で、1シリーズ計11与四球というのは1951年のアリー・レイノルズ以来の多さだった[172]。しかしカージナルスは、2番手で登板したスコット・フェルドマンの前に走者を得点圏まで進めながら、得点を挙げることはできなかった。カーペンターは「自分の調子が良かっただけに、あと2点もらえてりゃ試合は決まりだったんだが」という[173]。そしてその裏、レンジャーズが5番エイドリアン・ベルトレのソロ本塁打で同点に追いつく。カーペンターが内角低めへ投じた75mph(約120.7km/h)のカーブに、右膝を地面につきつつバットを合わせての一打だった。捕手のY・モリーナは「あれは失投じゃなくて、打った彼が一枚上手だったってこと」と感服し[174]、ベルトレは「(膝つきスウィングは)悪い癖でね、出ないに越したことはないんだよ」と明かした[175]。
7回表、レンジャーズのマウンドには3番手のアレクシー・オガンドが上がる。カージナルスは一死から2番クレイグが四球を選び、勝ち越しの走者を出塁させた。ここで3番プホルスは打席に入ると、自らの判断でクレイグにヒットエンドランの合図を出した[176]。2球目、クレイグがスタートを切る。ところがオガンドは98mph(約157.7km/h)のフォーシームを大きく外して投げ、プホルスはバットを振れずに見送り。クレイグは捕手マイク・ナポリの送球で二塁タッチアウトになった。カージナルスのダグアウトでは、監督のトニー・ラルーサがこのプレイについて、戻ってきたクレイグを問い質す場面がみられた[173]。その頃フィールドでは走者がいなくなったため、レンジャーズはプホルスとの勝負をみたび避けて敬遠した。これにより彼は、1試合で3本塁打を叩き込んだシリーズ史上3人目の打者となった2日後、今度は1試合に3度敬遠で歩かされたシリーズ史上3人目の打者となった[注 6][177]。後続は4番ホリデイの中前打などで二死満塁と攻めたてたが、6番デビッド・フリースが1球で中飛に打ち取られ、3イニング続けて得点圏の好機を潰えさせた。カージナルス打線は7回終了時点で、得点圏に走者を置いた場面では10打数1安打と好機を逸し続けている[173]。その裏レンジャーズも得点がなく、同点のままカーペンターの球数が100を超えた。カーペンターは、カーブを第1戦では87球中7球しか投じていなかったが、この日は101球中25球と割合を増やし、7イニングをソロ本塁打2本に抑えた[168]。8回裏、カーペンターに代わり2番手オクタビオ・ドーテルがイニングの先頭から登板したが、一死一・二塁という状況を招く。打席には左打者の7番マーフィーを迎え、カージナルスは左腕マーク・ゼプチンスキーをマウンドへ送った。
マーフィーは初球を打ち返し、打球がゼプチンスキーの足元を強襲した。もしこの打球を捕れていれば投ゴロ併殺になったと思われるが、実際には彼の左手と左膝をかすめたことで打球方向が変わり、内野安打となって塁が全て埋まった[178]。次打者ナポリは右打者で、今シリーズで既に7打点を挙げている。しかしカージナルスに右投手への交代の動きはみられない[注 7]。この場面に場内では「ナ・ポ・リ! ナ・ポ・リ!」とチャントが発生し盛り上がるが[179]、当のナポリは「外野まで運べれば犠牲フライで勝ち越し」とコンパクトな打撃を心がけた[180]。ナポリは3球目、甘く入った86mph(約138.4km/h)のスライダーを弾き返す。打球は右中間を破ってウォーニングゾーンに落ち、レンジャーズが2走者を還して4-2と試合をひっくり返した。カージナルスは、ゼプチンスキーが次打者を三振させたところで降板させた。ただ、そのあとの継投が不可解なものとなる。あとを継いだのは、抑えのジェイソン・モットではなくランス・リンだった。リンは第3戦で2.1イニング47球を投げていたため、投手コーチのデーブ・ダンカンは第4戦だけでなく第5戦でも起用しない意向を示していた[157]。そのリンがモットを差し置いて登板し、しかも1番キンズラーを敬遠しただけで降板した。続いてようやくモットが出てきて、2番アンドラスを3球三振としてイニングを終わらせたが、既に勝ち越されたあとでは遅きに失した。カージナルスは9回表の攻撃でも、7回表と同じくクレイグを一塁に置いて打席にプホルスという場面を作りながら、ベンチの指示でヒットエンドランを仕掛けて三振併殺と失敗に終わる[176]。最後はネフタリ・フェリスが5番バークマンを空振り三振に仕留めて試合終了となり、12残塁と拙攻続きのカージナルスをレンジャーズが下して、シリーズ初優勝まであと1勝に迫った。
なぜ同点の8回裏一死満塁で好調の右打者ナポリの打順なのに、カージナルスは左のゼプチンスキーをそのまま投げさせたのか。なぜリンはひとりの打者を敬遠するためだけに登板したのか。ラルーサが説明したのは、ブルペンとの電話連絡に生じた齟齬だった。まずドーテルが無死二塁とされたところで、ラルーサはブルペンに電話をかけ「ゼプチンスキーに準備させろ。……あとモットもだ」と命じたが、間が開きすぎたのでコーチのデレク・リリクイストがモットの部分を聞き逃したらしい[181]。ナポリの打順にモットが間に合わないと気付いたラルーサは、やむなくゼプチンスキーを続投させた。選手の誰かに怪我したふりをさせるなどの時間稼ぎはラルーサの頭になかった[178]。レンジャーズ側は事情を知らずに継投を想定していたため「どうなってるんだ?」と奇妙に思っていた、とベルトレは述べている[175]。次に継投策が狂ったのは、ラルーサが再び電話してモットを準備させるよう言ったときで、ここでリリクイストがモットとリンを聞き違えたため、ゼプチンスキーとモットの間にリンを挟まざるを得なくなった。投手交代のためマウンドでモットを待っていたラルーサは、予想外のリンの姿を見て「君はこんなところで何をしている?」と訊ねたという[181]。手痛いミスを犯したカージナルスは、もう1敗もできないところまで追い詰められて本拠地ブッシュ・スタジアムへ帰ることになった。
第6戦 10月27日
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テキサス・レンジャーズ | 1 | 1 | 0 | 1 | 1 | 0 | 3 | 0 | 0 | 2 | 0 | 9 | 15 | 2 |
セントルイス・カージナルス | 2 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 1 | 2 | 2 | 1x | 10 | 12 | 3 |
- 勝利:ジェイク・ウェストブルック(1勝)
- 敗戦:マーク・ロウ(1敗)
- 本塁打
TEX:エイドリアン・ベルトレ2号ソロ、ネルソン・クルーズ2号ソロ、ジョシュ・ハミルトン1号2ラン
STL:ランス・バークマン1号2ラン、アレン・クレイグ2号ソロ、デビッド・フリース1号ソロ - 審判
[球審]ゲイリー・シダーストロム
[塁審]一塁: ジェリー・レイン、二塁: グレッグ・ギブソン、三塁: アルフォンソ・マルケス
[外審]左翼: ロン・カルパ、右翼: テッド・バレット - 試合開始時刻: 中部夏時間(UTC-5)午後7時6分 試合時間: 4時間33分 観客: 4万7325人 気温: 53°F(11.7°C)
詳細: MLB.com Gameday / ESPN.com / Baseball-Reference.com / FanGraphs
テキサス・レンジャーズ | セントルイス・カージナルス | ||||||||
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打順 | 守備 | 選手 | 打席 | 打順 | 守備 | 選手 | 打席 | ||
1 | 二 | I・キンズラー | 右 | 1 | 遊 | R・ファーカル | 両 | ||
2 | 遊 | E・アンドラス | 右 | 2 | 中 | S・シューマッカー | 左 | ||
3 | 左 | J・ハミルトン | 左 | 3 | 一 | A・プホルス | 右 | ||
4 | 一 | M・ヤング | 右 | 4 | 右 | L・バークマン | 両 | ||
5 | 三 | A・ベルトレ | 右 | 5 | 左 | M・ホリデイ | 右 | ||
6 | 右 | N・クルーズ | 右 | 6 | 三 | D・フリース | 右 | ||
7 | 捕 | M・ナポリ | 右 | 7 | 捕 | Y・モリーナ | 右 | ||
8 | 中 | C・ジェントリー | 右 | 8 | 二 | N・プント | 両 | ||
9 | 投 | C・ルイス | 右 | 9 | 投 | J・ガルシア | 左 | ||
先発投手 | 投球 | 先発投手 | 投球 | ||||||
C・ルイス | 右 | J・ガルシア | 左 |
シリーズは移動日を挟んでブッシュ・スタジアムに舞台を戻し、第6戦は10月26日に行われる予定だった。しかし当日の昼頃になって軽く雨が降り始め、予報では夕方から本降りになるとみられたため、MLB機構は試合開始5時間前に早々と順延を発表した[182]。皮肉にもこのあと、予報とは裏腹に試合ができる状態にまで天候が回復し、ランス・バークマンは「第1戦のときよりいい天気なのに」とぼやいた[183]。ただこの順延は、逆転優勝のために連勝が必要なカージナルスにとっては大きな意味を持つ。エースのクリス・カーペンターを最終第7戦に中3日で先発させることが可能になったためである。監督のトニー・ラルーサは第7戦の先発について明言こそ避けたものの、カーペンターからは「喜んで投げる」と話があったという[183]。対するレンジャーズは、第4戦で相手打線をほぼ完璧に封じたデレク・ホランドを中4日で第7戦の先発とする手もあるが、こちらは監督のロン・ワシントンが「この1年やってきたことは変えない」として先発ローテーションの組み替えをきっぱりと否定した[182]。もちろん、この第7戦の話題は第6戦でカージナルスが勝つことを前提としたものであり、レンジャーズが第6戦を制した場合には第7戦は行われない�